ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

トキオ

東野圭吾  2002年


花やしきで待ってるぞ!

 このところ、これといって確たる理由も無く、これまでの生き方に対する懐疑とこれからの人生に対する不安とが過去最大級で私を襲ってきているのです。今までやってきたことは何だったのだろう。意味のあることだったのだろうか。今こんなことしていていいのだろうか。明日からも、このままでいいのだろうか。……こんなこと10台や20台前半の悩み多き若者が言うのならともかく、職場では部下を抱え、下っ腹も出てきて、もうすぐ34になろうっておっさんが考えることじゃないですね。自分でも分かっているんですけれど、それをコントロールできりゃ世話はないわけで、実に何とも情けない話です。まぁ、そんなことウジウジ言っていても仕方ないので、とにかく、何とか折り合いをつけながら一日一日をクリアしていっているわけですけど、そんな精神状態でこれを読むのはつらかったですねぇ。あぁ、もぉ、なんて俺は情けない人間なんだ、こんなことしてちゃダメじゃないか、いやホントに胸にズンと来る作品です。

 宮本拓実・麗子夫妻の一人息子・時生は今、病院のベッドで最期のときを迎えようとしていた。病名はグレゴリウス症候群。今の医学では不治の、遺伝性の病気である。生まれる前から、この病気を患う可能性があると分かってはいた。それでも拓実は妻・麗子と相談し、子どもを産むことを決めたのだ。命の灯火が消える寸前の息子の姿を見て思う。「この子は生れてきたことを後悔していないか、病気の体で産み落とした自分達を恨んでいないか」と思い悩む麗子。そんなとき、夫の拓実はある「信じられないこと」を確信し、20年以上前に出会った少年との想い出を語りはじめる。「ずっと昔、俺はあいつに会ってるんだ」……。1979年、浅草・花やしき。堪え性がなく、何の仕事をやっても長続きしない自堕落な生活を送っていた23歳の拓実は、「トキオ」と名乗る青年に出会う。「俺は、あんたの息子なんだよ、宮本拓実さん。未来から来たんだ。あと何年かしたら、あんたも結婚して子供を作る。その子にあんたはトキオという名前をつける。その子は17歳の時、ある事情で過去に戻る。それが俺なんだよ。」……時を越えた奇跡の物語。

 『秘密』のようにSF的な設定を使って感動の物語が展開されます。またしても、やってくれたな東野圭吾、って感じですね。本当に外すことのない作家です。まぁ『レイクサイド』はイマイチだと思いましたが(なにしろ東野作品は平均点が高すぎますから、自動的に評価のハードルも高くなるんです)、ハズレ無しの東野、またまた快作を放ってくれました。もちろん、私のようにダメダメな精神状態じゃない人でも感動の嵐に巻き込まれること間違いなし。落涙必至のラストシーンまで一気に突っ走ります。どこかで聞いたような話だし、ありがちなタイムトラベル物だし、設定も際立って特殊というわけではないし、(東野作品としては)凡作と言われるかも知れませんが、途中でキッチリひねりも加えられていて、十分楽しめますよ。でも、やっぱり「泣き」が大きな要素だと思うので、読むときはハンカチを用意しましょうね。


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