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ダイキチデラックス

バルタン星人はなぜ美しいか 形態学的怪獣論<ウルトラ>編

小林晋一郎  2003年


解剖台の上での、ミシンと雨傘との偶発的な出会いのように美しい

 誕生以来、数多くの傑作怪獣を生み出したウルトラシリーズ。歯科医師と特撮ファンの2つの顔を持つ著者が、熱い思いをこめて語る「怪獣賛歌」。というわけで、ウルトラ怪獣の魅力を語る評論、というよりも、少々硬めのエッセイといったところでしょうか。著者は、高校生のときに『帰ってきたウルトラマン』第34話「許されざるいのち」のシナリオ原案、大学病院時代に『ゴジラvsビオランテ』の原案が採用されたという筋金入りのマニアさんです(どっちもキチガイ科学者が変な生き物を作っちゃうという同じストーリーではないかというのは言わない約束)。

 前作『形態学的怪獣論』は、ゴジラとかラドンとか、恐竜が元だから色も形も地味で、デザインを語るには不向きな東宝怪獣に関する内容だったので、正直なところ面白味はあまり感じられませんでした。もっとも恐竜研究はどんどん進んで、ゴジラみたいに直立していた奴はいなかったらしいと分かってきたので、あれはあれでオリジナリティがあるのかもしれませんが、真の意味でオリジナリティを感じさせてかっこいい東宝怪獣は、キングギドラ、ガイガン、モゲラ程度ですからねぇ。ヘドラは語りたくなるデザインじゃないし。そのうえ、何を血迷ったか気取った詩まで付いていたので、シラケちゃう部分もありましたが、今回はデザインを語るのに、質量ともに充分なウルトラシリーズを取り上げ、なかなか面白く仕上がっています(相変わらず詩は付いているけれど)。

 既に評価が定まっている成田亨デザイン・高山良策造型のものだけではなく、最近の『ウルトラマンコスモス』までフォローしているのは素晴らしいのですが、やはり優れたデザイン、造形は初期作品に集中しています。特に、本書のタイトルにもなっていて抜群の知名度を誇るバルタン星人は著者もお気に入りのようで、かなりの紙幅が割かれています。実は、バルタン星人は、『ウルトラQ』に登場したセミ人間(チルソニア遊星人Q)の改造で、成田デザインに忠実に造形されたわけではない(デザイン画に忠実なのは2代目)のですが、そこが素晴らしいと熱く語っているところがマニアックです。生みの親の成田に「制約が多すぎたので初代のデザインは気に入らない」と言われたばかりか、初登場時に種族まるごと全滅したはずなのに、製作者側の都合に振り回されて子孫が何人も現れて、「限りなきチャレンジ魂」でウルトラ兄弟に立ち向かうも連戦連敗、挙句の果てにはプリティな子供の姿で友達になってしまうなど、ミステリアスな魅力をどんどん剥ぎ取られてしまった可哀想なキャラクターでもありました。ちなみに、私はバルタン星人よりも、ペスターやゼットンやエレキングやギラドラスやアイロス星人の方がかっこいいと思うんですが、あなたのお好きな怪獣は、本書でどのように語られているでしょうか。


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