ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

神様はサウスポー

今泉伸二  1988年~1990年


感謝!

 早坂弾と井上美鈴の父はプロボクサー。ともに世界チャンピオンを目指すライバルだったが、日本タイトルのかかった試合で両者は激突。死闘の末、井上は命を落とし、その亡骸の前でチャンピオンになることを誓った早坂も後継者育成のために海を渡るが、志半ばで病死する。弾は父の墓前でチャンピオンになることを誓い、拾われた修道院で体を鍛え、10年後日本に帰還する。弾は、父のライバルだった井上の子供、旭と美鈴兄妹の家に居候し、旭のジムの所属となる。普段は温厚で聖者の衣を羽織っているが、ボクシングの試合の時には秘められた「神の左手」の力を解放し、ライバル達と戦う。そして、互いの父が果たせなかった夢、ボクシングの世界チャンピオンを目指す!

 こうやってあらすじを書いてしまうと、ものすごく「安い」イメージになってしまって、同じボクシング漫画『あしたのジョー』と比較されてしまうのだろうなぁ。確かに『あしたのジョー』はボクシング漫画の金字塔であり、社会現象にまでなった大傑作ですし、それにひきかえ、本作は「マンガ史に残る傑作!」とかいうものでもなく、多分知っている人もそんなにいなくて、知っていても高く評価する人は更に少ないであろうという作品ですが、日本人の琴線を刺激しまくる浪花節が炸裂していて、実に爽やかに泣ける作品です。設定がくさすぎるとか、あまりにもベタとか、ボクシング漫画なのに軽すぎるとか、絵が下手とか、そういうことは、この際無視して、どっぷり浸ってみるのもいいと思うんですよ。それが出来るかどうかで、自分の純粋さ度合いを測ることが可能なのです。ある意味、少年漫画のあるべき姿って感じがするんですが、いかがでしょう。

 それに、ジョーが極めて攻撃的でハングリーな印象を持つ作品だったのに対して、こちらは主人公を教会で育てられた非暴力の少年に設定することで、実に穏やかな印象を持たせることに成功しています。普段は心優しく弱々しい少年が、いざリングに立てば恐ろしい牙をむくっていう、これまた(ありがちとはいえ)燃える設定。お昼のメロドラマみたいな悲劇を背負って現れるライバル達。そして、あくまでも爽やかに、拳を交えることでライバルともども成長していくという青春ドラマ。こんな爽やかな漫画が、『北斗の拳』『聖闘士星矢』よりも後に少年ジャンプに連載されていた事実に驚きです。もっとも、最後は中途半端な形で終わってしまって(打ち切り?)、ドラマとしては未完状態になっているのが残念ですが。


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