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ダイキチデラックス

おかしな二人 岡嶋二人盛衰記

井上夢人  1993年


相方さんは今いずこ

 佐世保の小学6年生の女児による同級生殺害事件(2004年)ですけれど、動機は「ホームページに嫌なことを書き込まれたこと」と報道されていますね。これに対する、いわゆる「識者」のコメントに「直接顔を見て話をしないと意思疎通が図りにくい」というのがありました。当然すぎてバカバカしいコメントですが、これを見て思い出したのが、この本。コンビ作家が忙しくなっていくとともに連絡方法を対面からメールに切り替え、そして意思疎通できなくなっていく過程が描かれていたのを思い出したのです。

 この『おかしな二人』は、岡嶋二人というコンビ作家(井上夢人と徳山諄一)の結成から消滅までの13年間を描いた自伝的エッセイ。岡嶋二人は、大々的なブーム到来!とかバカ売れ!なんてことにはなりませんでしたが、傑作と名高い『そして扉が閉ざされた』は、その評価に恥じない作品だと思いますし、あんまり話題にならない『チョコレートゲーム』も面白いよ。1989年に解散してからは片割れの井上だけが本を出し続けています(徳山も仕事しているのかも知れませんが、少なくとも世間の話題には上ってない)。で、そんな作家の内幕を知ることが出来るんですから、いろんな意味で興味深い本です。

 井上夢人曰く、岡嶋二人というのは、僕にとって故郷のようなものだ。なにもかもが、そこから始まった。僕はそこでミステリについて学び、話の組み立て方を覚えた。小説にとって、何が必要で、何が不必要なのかを教えられた。だから、今、僕がまがりなりにも小説を書く側の人間としてワープロの前に座っていられるのは、なにもかも岡嶋二人から与えられたものなのだ。もし、過去のあの日、徳山諄一という男と出会っていなければ、僕の人生はまったく違ったものになっていただろう。それは僕だけじゃなくて、たぶん、彼にとっても。……

 で、興味深いし、読んでいて面白いってことは認めたうえで、全然別の次元で、私は、この本が気に食わない。何が気に食わないって、この井上って奴が虫が好かんのです。解散に至る過程を描いた後半部分なんて、読み進めるとムカムカしてくる(別に、徳山に感情移入しているわけではないので念のため)。そもそも、こういう内容を本にしようという根性が気に食わない。私が井上夢人ひとりになってからの作品を面白いと思えないのは、いわゆる推理小説的なテイストから遊離していること(もっとも、これは岡嶋二人の最後の作品にして、実質は井上単独作品『クラインの壺』からも感じられるもので、たぶん井上のカラーなのだろう)が大きな要因ではあるのだけれど、この『おかしな二人』を読んでしまったから、というのも否定できないのである。というわけで、井上の徳山に対する感情と同様に、私にとっては愛憎半ばする(なんて言うと大袈裟すぎるけど)本なのである。

 あ、佐世保の事件のニュース見ていて、もうひとつ気になることが。「事件2日前の運動会でも喧嘩していた」って言ってたんですけど、事件2日前って5月末。最近の運動会って、5月にやるの?体育の日とか、秋にやるもんじゃないの?


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