ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

おれは非情勤

東野圭吾  2003年


ハードボイルドな小学校教師(非常勤)

 ミステリ作家をめざす「おれ」は、小学校の非常勤講師。下町の学校に赴任して2日目、体育館で女性教諭の死体が発見された。傍らには謎のダイイングメッセージが!一方、受け持ちのクラスにはいじめの気配がある……。盗難、自殺、脅迫、果ては毒殺未遂(?)まで、「おれ」が赴任する先々の学校で起こる怪事件。見事な推理を展開するクールな非常勤講師の活躍を描く異色ミステリ。「おれ」が活躍する「6×3」「1/64」「10×5+5+1」「ウラコン」「ムトタト」「カミノミズ」の6編に、小学5年生の小林少年(小林芳雄じゃないよ)が主役の「放火魔をさがせ」「幽霊からの電話」を加えた短編集。

 いやぁ、やってくれます東野圭吾。今度はジュブナイルときたもんだ。今時、子ども向けのミステリってのも貴重ですからねぇ。97年から99年にかけて学研の『5年生の学習』、『6年生の学習』に連載されていたジュブナイルでハードボイルドな短編集(「放火魔をさがせ」「幽霊からの電話」は「学習・科学 読み物特集」に掲載)。なんじゃそりゃ、と思うが、これがまた実に面白い。小学校を舞台にしたハードボイルドだからって、小学生相手に拳骨を振り回したりドンパチやらかしたり××したりするわけではないので念の為。キッチリと論理的に事件を解決してくれますよ。それにしても、いろんなジャンルに手を出して、そのどれもが水準以上の出来というのは一体どういうことだ。普通じゃないね、東野圭吾。頭の中を見てみたい。いや、実物は見たくない。

 それはともかくとして、これぞ良質のジュブナイル。文庫化にあたって加筆されているので、最初に子どもたちが触れた文章がどんなのかは分からんが、こういう物語こそ子ども達に読んでほしいね。それと、子どもに接する大人も読むべきだ。いや、大人だ子どもだということじゃなくて、人が人に接するときに、本当に大切なことは何なのかということを語るのに、甘い、きれいごとの理想ではなく、「生徒はガキだ」と割り切り、人と接することなんて大切だと思ってないようなアウトローでハードボイルドな主人公に語らせるという設定が、なんとも誠実に感じられる。こうでなければ子どもの気持ちはつかめないよ。子どもってのは、きれいごとや建前ってのを簡単に見抜くからね。そして、一旦「きれいごとを言う奴だ」と思ったら、二度と話を聞いてくれないからね。その点、この作品は、子どもに対してとても誠実だ。もちろん推理小説としての完成度だって高い。子どもに読ませる、読み通させるというのは、本当に難しいんだよ。ただ単に活字を大きくして、総ルビにすりゃいいってもんじゃないんだ、分かるかね、講談社のミステリーランド。


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