ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

ゴールドういろう

東郷隆  1986年


わては丁稚だす。御隠居はんの御命令やったら……

 大阪・堺筋センタービル内にある丼池(どぶいけ)繊維振興会事務局連絡二課渉外係長補佐見習いの安井友和……その正体は、大阪商工会議所秘密会所直属の殺し屋兼情報部員、「殺人許可証を持つ丁稚」定吉七番(定吉セブン)。彼の最大の敵は、汎関東主義秘密結社『NATTO』(ナットー)である。彼らは、「すべての関西人の食卓に納豆を!!」をスローガンに、東日本から関西系企業を駆逐する為に暗躍する謎の組織である(ちなみに、その下部組織として『KIOSK』(関東一円お弁当殺人協会)が存在する。)。関西系企業と大阪の文化を守るため、彼は元締である千成屋宗右衛門に呼び出され、唐桟の仕着せに前垂れかけて、短く刈り上げた髪型(10円ハゲあり)にハンチング、懐に忍ばせた愛用の柳刃包丁「富士見西行」で今日も戦う!

 というわけで、007のパロディ、定吉七番シリーズ第4弾です。『番頭はんと丁稚どん』や『あっちこっち丁稚』などといったコテコテの文化に触れていない関西圏以外の人々に、この面白さが充分理解できるのかどうか分からないのだけれど、とにかくよくできたパロディ小説です。と言うよりも、そもそも丁稚って何?という人が多いでしょうか。丁稚というのは、江戸時代から第二次世界大戦終結まで行われた商店主育成制度によって入門したばかりの者を指します。関東では「小僧」と言うそうです。テレビでは大村崑や芦屋小雁、木村進や坂田利夫といった人たちの勇姿が忘れられませんね。本シリーズは、設定だけ聞くとバカ以外の何物でもないけれど(いや、読んでもやっぱりバカですが)、意外やハードボイルドに人が死にまくります。元ネタになっている007映画を見てから読まなきゃ楽しめませんぞ。今回の敵は、小豆を買い占めて京都の伝統和菓子の壊滅をもくろむ鯱鉾屋金蔵こと尾張名古屋「しゃちほこういろう」本舗会長。元ネタは『ゴールドフィンガー』ですね。やれ世界征服だのなんだのと言ったネタが飛び交う元ネタの映画よりも、商売敵を潰そうという金絡みの話で設定がシビアな気がしますが、あのゴールドフィンガーが、オッドジョブが、金粉まみれの美女が、どんなふうに料理されているか、東郷隆の腕の冴えをとくと御賞味あれ。

 シリーズには他にも『定吉七は丁稚の番号』(「オクトパシー・タコ焼き娘」を併録。元ネタはそれぞれ『ドクター・ノオ』『オクトパシー』)、『ロッポンギから愛をこめて』(元ネタは『ロシアより愛をこめて』)、『角のロワイヤル』(元ネタは『カジノロワイヤル』)、『太閤殿下の定吉七番』(「真昼の温泉」を併録。元ネタはそれぞれ『女王陛下の007』『真昼の決闘』……って007じゃないじゃん!)があるので、元ネタ映画ともども楽しみましょう。


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