ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

神様ゲーム

麻耶雄嵩  2005年


充満する悪意を存分にお楽しみあれ

 小学4年生の黒沢芳雄の住む神降市で、連続して残酷で意味ありげな猫殺害事件が発生。芳雄は憧れのミチルちゃんが可愛がっていた猫が事件の犠牲になったことから、同級生と結成した探偵団で犯人捜しを始める。そんな時、転校してきたばかりのクラスメイト鈴木太郎君に、「ぼくは神様なんだ。猫殺しの犯人も知っているよ。」と明かされる。鈴木君は、まだ放送されていないテレビ番組の展開や芳雄の寿命も知っているという。これは何かのゲームなのか?それとも、ただの大嘘つき?それとも、彼は本当に「神様」? そして、その数日後、芳雄たちは探偵団の本部として使っていた古い鬼婆屋敷で親友の死体を発見する。猫殺し犯がついに殺人を? 芳雄は「神様」に真実を教えてほしいと頼むのだが……。

 第二長編『夏と冬の奏鳴曲』で読者を異次元に突き飛ばし、「なんだか訳の分からないミステリーもどきを書く作家」として不動の地位を獲得した麻耶の最新作。よいこの私としても、あまり得意な作家ではなく、これまでは『メルカトルと美袋のための殺人』所収の「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」が評価できる程度と認識しておりましたが、これには参った。徹底した諦念と受容の観念。ほかならぬ神様が言ったことなのだから、それは真実なのです。納得できるとかできないとか、不条理だとか理屈に合わないとか、そんなことは関係ないのです。真実なのだから黙って受け止めればいいのです。人には、それしかできないし、それ以上のことをする必要も能力もないのです。世の中というのは、そういうものなのです……こんなことを推理小説で言ってしまっていいのでしょうか。相変わらず探偵とか推理とかいうものを徹底的に否定し、読者を混乱と絶望の坩堝に叩き込む毒素が充満しております。事件そのものもかなりグロテスクな代物で、作者によれば「これはトイレ掃除を通じて、小学生と神様の心の交流を描いたお話です」とのことで、半端ではない悪意が渦巻いています。

 たとえ子供向けにしてはマニアックすぎ、大人向けにしては物足りないという中途半端な講談社ミステリーランドとはいえ、仮にも「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」と銘打ったシリーズで、こういう作品を書いてしまうところがスゴイ。「いつもの調子」と言えばそれまでですが、それを貫いてしまうあたり、一本筋が通っていると言おうか我儘と言おうか、ある意味天晴れです。一応子供向けを意識しているのか文章は分かりやすくなっており、おかげで麻耶入門としては最適な作品になっています。ラストまで一気読みして唖然呆然の気分を存分に味わってください。


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