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ダイキチデラックス

エラリー・クイーン パーフェクトガイド

飯城勇三 & エラリー・クイーン・ファンクラブ  2005年


「魔法(Magic)だ!」「いや、論理(Logic)です」

 私は1969(昭和44)年の生まれなのでありますが、この世代で推理小説が好きな人は、まず間違いなく、小学校の図書室(これが木造校舎だったりする)でブラウン運動を観察しながらポプラ社のルパン全集(南洋一郎「作」ね)とか乱歩の少年探偵シリーズとかを読んでいたはずです。私の通っていた衣笠小学校の図書室には、何故かホームズ全集は置いてなかったなぁ。で、それらを読みつくしたとき、あかね書房の『エジプト十字架の秘密/十四のピストルのなぞ』なんかに出会ったのが運の尽き。「ちゃんとした大人向けを読まなければ!」と一念発起して、創元推理文庫の巻末広告を頼りに次から次へと読み漁ったのでした。しかし、アイテムが増えすぎて、何から何までが等価値並列化されたカタログ社会の現代では、正統の教養というものは、なかなか身につかないものなのであります。だからして、ミステリファンですなんてことを言う若い人たちの中には「エラリー・クイーンって誰ですか?」とかいう信じられない奴がいるのです。乱歩も横溝もクイーンも読んだことがなくて、ミステリファンを名乗れるとでも思っているのか!あぁ、嘆かわしい。なんてことをいう私の方が間違っているのかな。時代遅れなのかな。ええ、ええ、年寄りはどこへ行っても邪魔者扱い。

 しかし、時代遅れだろうがなんだろうが、世界最高のミステリ作家はエラリー・クイーンであるという確信は揺らぎません。これは、クイーンの全46作品の徹底解説を中心に、未発表短編2編、幻のエッセイなど、その全貌を解き明かす、今までありそうでなかったガイドブックです。日本を代表する作家陣の偏愛アンケートも収録、芦辺拓の書き下ろしエッセイなど、すべての本格ミステリファン必読の決定版!昔はフランシス・ネヴィンズJr.の『エラリイ・クイーンの世界』っていう小難しくて読みにくい本(訳が酷いとの定評があるので、早川書房に改訳決定版を出してほしい)しかなかったんですがねぇ。「バールストン正攻法(ギャンビット)」って言葉は、この本で覚えたんですよ。それはさておき、クイーンの全作品(もちろんレーン4部作も入っています)の平易なあらすじ、解説、そして優れた考察と、これは実にありがたい。推理小説好きを自任している人なら絶対持っていて損はしません。いや、座右の書とすべきでしょう。購入は、推理小説を愛する人の絶対の責務と言っても過言ではありません。クイーンを読んだことがないというボンクラはもちろん、ほとんど読んでいるよという普通の人も楽しめますから、是非、万難を排して入手してください。

 そして、ここのところが肝心なのですが、入手するときは、必ず文庫版にしてください。『エラリー・クイーン Perfect Guide』というタイトルのムック版(文庫版の基になったものです)がありますが、これがなんとも悪趣味極まる表紙で、真のファンの心を傷つけまくってくれます。エラリー・クイーン・ファンクラブが関わっているとは思えない愚挙、暴挙であります。表紙を描いた漫画家のJETという人は、原作の熱烈なファンだそうですが、こんなホモ漫画みたいな絵を描かれては、良識あるファンは皆そっぽを向くこと確実です。文庫版なら、初版本のジャケットデザインをあしらったデザインが非常に趣味がよく、内容もムック版より充実、アメコミのクイーンが見られないのが、唯一残念といったところでしょうか。しかし、JETって横溝作品をメインにミステリの漫画をたくさん描いていて評判がいいって言うし、これが最近の若い人向けなのかねぇ。私が時代遅れなのかねぇ。ええ、ええ、年寄りはどこへ行っても邪魔者扱い。


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