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ダイキチデラックス

怪盗グリフィン、絶体絶命

法月綸太郎  2006年


怪盗グリフィンに不可能はない

 ニューヨークに住む粋な怪盗グリフィンに、メトロポリタン美術館(通称メット)が所蔵するゴッホの自画像を盗んでほしいという依頼が舞いこんだ。いわれのない盗みはしないともったいつけるグリフィンに、依頼者はメットにあるのは贋作だと告げる。「出かけるときは、忘れずに」ではなく、「あるべきものを、あるべき場所に」が信条のグリフィンは、大胆不敵太腿素敵なミッションを敢行する。しかし、この依頼には裏があった。数日後、政府の対外スパイ組織CIA(アメリカ中央情報局)作戦部長の依頼を受けたグリフィンは、極秘オペレーション「フェニックス作戦」を行うべく、カリブ海のボコノン島へ向かう。その指令とは、ボコノン共和国のパストラミ将軍が保管している人形を奪取せよというものだった。気が進まぬながらも仕方なくミッションを開始したグリフィン、その運命やいかに!

 というわけで、「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」講談社ミステリーランドの新作。このシリーズは、その謳い文句とは裏腹に、「こんなもん少年少女が読んで楽しめるかい」とか「かつて子どもだった俺が読んでもつまらんぞ」とかいう駄作が多く、私はことあるごとに悪口を言っているわけだが、どうも、このつまらなさというのは、ページをめくらせるドキドキ感、わくわく感の欠如が最大の理由だと思われる。社会状況が変わって子どもを取り巻く環境が変わり、また、それによって扱うテーマが重く暗く変わらざるを得ないとしても、やはり子どもには純粋にドキドキわくわくできる物語を与えたい。その点、本作は正義の怪盗を主役に据え、その冒険を描くという、いかにもの古臭い設定が嬉しい。様々な困難をものともせず突破し、どんな窮地に陥っても「怪盗グリフィンに不可能はない」と見得を切る主人公のかっこよさ!子ども用ミステリ界に新たなヒーローの誕生だ!本秀康による挿画もミスタードーナツのオマケみたいにポップでキュートで素晴らしい。

 法月綸太郎は、この作品で、やっと鉱脈を掘り当てたな、という感じがする。これまで書いてきた作品は、無理やり重いテーマを扱って、無理やり探偵の悩みを捻り出して、やっとこさ仕上げていたような印象が強く、読んでいてもつらくなったものだけれど、この作品では何かが吹っ切れたように生き生きしているではないか。これを是非シリーズ化して年に二冊は出してほしい。そして、現代の少年探偵シリーズとして書き続けてほしい。少々辻褄の合わないところがあったって構わない。読んでいる間はつまらない現実を忘れさせてくれる、血沸き肉踊るノンストップ・ジェットコースター冒険活劇に仕立ててほしい。『怪盗グリフィン、危機一髪』、『~百発百中』、『~千変万化』、いくらでもタイトルは思いつけるぞ。くれぐれも悪い癖を出して『~人間失格』とか『~暗夜行路』とか書かないように。


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