ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

ドーベルマン DOBELMANN

[監督]ヤン・クーネン [出演]ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ  1997年


エクスタシーが加速する

 フランス映画です。世界初の映画『月世界旅行』『巴里の屋根の下』『天井桟敷の人々』なんて名画は全部フランス映画。『勝手にしやがれ』『太陽がいっぱい』『去年マリエンバートで』『シェルブールの雨傘』もフランス映画。というわけで、格調高くインテリ臭くてオシャレなイメージが一般的ですが、本作では、そんなウイットだのエスプリだのといったものは全く味わえません。花の都なんて言ったところで、実はパリなんて犬の糞だらけの町だそうで、江戸の名物、伊勢屋、稲荷に犬の糞と大して変わらない。そんな町にロマンあふれる映画なんて生まれないわけで、本作は、凶悪銀行強盗と凶悪刑事の対決という知性のかけらも見当たらないハード・アクションです。いまだに選民意識の高い本国フランスでは貶されまくったらしいですが、どいつもこいつも何を見ておるのでしょうか。

 生まれながらの強盗、ドーベルマンことヴァンサン・カッセル率いる犯罪者集団は、銀行強盗を遊び感覚で次々に成功させ、神出鬼没の大活躍。彼らを追うパリ警視庁は、犯人逮捕のためには手段を選ばない冷酷非情な狂気の刑事チェッキー・カリョに捜査を一任する。早速カリョはカッセルの仲間の家族に執拗な暴行を加えて脅迫、挙句の果てには幼い子を人質にしてカッセルのアジトを聞き出す。モニカ・ベルッチ達カッセルの一味は、アジトに集まっているところをカリョに急襲され、殺されたり捕まったりと血祭りにあげられてしまう。これではどっちがドーベルマンだか分かりゃしない。かくして、ドーベルマン対ドーベルマンの凄絶な戦いが始まる。

 フランスには、フィルム・ノワールといった犯罪映画の系譜があり、『現金に手を出すな』なんて名作もあるわけですが、そんな歴史なんかクソくらえとでもいう風に、キチガイじみた凶暴性を発揮した映画です。とにかくチェッキー・カリョの狂いっぷりが見もので、一家団欒の食卓に乗り込んできて「このフェラ好きのカマ野郎が!」と家族の前で息子の趣味を勝手にカミングアウト、その場で拷問するという心温まるシーンが特に印象的です。この台詞、なかなか忘れることが出来ませんが、フランス語では何と言っているんでしょう?それはともかく、変なレンズだかCGだかを多用した異様なカメラワークがド迫力で、映画はストーリーじゃなくて画像だ!と思わず納得させられます。リュック・ベッソンが「俺の仲間の中では最高傑作だ!」と吐かしたそうですが、『レオン』の栄光にすがって『フィフス・エレメント』なんて駄作ばっかり撮っているくせに偉そうなベッソンに言われたら、ヤン・クーネン監督も苦笑いでしょう。もっとも、このヤン・クーネンという人も、これ以外に何か撮ったという話は聞かないのですが。ちなみに、我が国が誇る狂犬刑事『ドーベルマン刑事』とは何の関係もありません。


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