ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

都会の森

[出演]高島政伸、田中美佐子、黒木瞳、伊武雅刀、佐藤慶  1990年


長坂秀佳脚本、父と子の法廷

 主題歌、徳永英明の「壊れかけのRadio」は覚えていても、このドラマ自体は忘れられているのではないか。まだ「フレッシュ」の一言で許されていた高島政伸や、江口洋介も財前直見も若い。水野真紀なんかぺーぺー以外の何者でもない。神田利則……最近見ませんね。あ、野口五郎と噂になった久我陽子も出ているぞ。田中美佐子と黒木瞳のダブル女弁護士は、今では絶対不可能な豪華キャスティング。おそらく、後の『七人の女弁護士』に繋がっていく設定だとは思うのだが、さすがに7人も豪華キャストは揃えられなかったのと、そもそも主演の賀来千賀子が大根すぎて不発に終わりましたな。それはともかく、本作はテレビドラマ史上稀に見る完成度を持った本格推理法廷ドラマである。

 司法研修所を卒業し、新米弁護士となった高島政伸。政伸の父であり東京地検の検事正を勤める佐藤慶は、先祖代々検察一家であるが故に政伸にも検事になるよう強く望んでいたため、弁護士になった政伸に対して「叩き潰す」と冷たく突き放す。そして政伸は、14年前にある裁判で佐藤と戦った鈴木瑞穂の事務所に勤めることになった。鈴木の娘・黒木瞳は、政伸の学生時代の憧れの君であり、「黒い女豹」と呼ばれる凄腕美人弁護士。その事務所に、もう一人の凄腕美人弁護士「白いライオン」こと田中美佐子が所長代理として招かれた。瞳と美佐子は、研修所の同期生時代、佐藤の部下である東京地検検事・伊武雅刀を巡り犬猿の仲の関係だった。ひょんなことから「不倫女教師・夫殺し事件」―教え子の父親と不倫関係を持った女教師が、不倫がバレたために口論になり夫を殺したとされる事件を担当することになった政伸。被告人である女教師が自白しており、誰の目にも有罪に見えた事件だったが、政伸は法廷で「被告人は無罪」と口走る……。

 いろんな思惑が重なって、政伸が主任弁護人として担当することになるという発端から、絶対有罪と思われる被告人の無罪を、つい勢いで争うことになるというスゴイ設定。この後、目撃者探し等に奔走するわけですが、アリバイの勘違いや、誰かが戻しておいた自転車の謎など本格推理趣味横溢で、もちろんラストには大どんでん返しも用意されています。更に、刑事訴訟法30条2項「被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができる。」や、憲法82条2項「裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。」を持ち出してのドラマ展開は、TBS金曜ドラマのレベルをはるかに超えている。お決まりの「父と子」テーマも健在で、第1話から張られていた伏線、ラッキョウのエピソードには落涙必至。真実を隠して被告人利益を守る途を採らず、あくまで真実追究にこだわる姿勢を「情より法を説く検察官の正義」だと指摘するセリフ(これに対するのは『特捜最前線』第85話「死刑執行0秒前!」の船村の名セリフ「弁護士というものは、真実を無視し、無実の人間を死刑にしてまで犯罪者の人権をかばうものだと思っているうちは、それは違う。法律的には許されるものだと思っているとしても、それは違う。あなたも、将来弁護士の道を進もうとしている人なら、これだけはよーく分かってもらいたい。弁護とは、真実に目を瞑って誤魔化すことじゃない!お互いに真実を曝け出した上で犯罪者の人権をかばうことだ!」)、「ひとつの悲しみを救うことは、別の悲しみを作ることだ」といったセリフや、『特捜最前線』第418話「少年はなぜ母を殺したか!」に似た展開など長坂脚本のエッセンス凝縮しまくりの面白さを是非味わってほしい。


copyright©Daikichi_guy 1999-2020  all rights reserved.