ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

吸血鬼ゴケミドロ

[監督]佐藤肇 [出演]吉田輝雄、佐藤友美、高英男  1968年


生き血を吸われた人間が見るみる風壊する!

 1960年代後半の日本。羽田空港から伊丹空港に向かう小型旅客機が、外国大使を暗殺して逃亡中だったテロリスト高英男によってハイジャックされた。その直後、旅客機は謎の火の玉と接触して、見知らぬ山中に不時着した。西本裕行スナフキン機長は死亡、奇跡的に生き残ったのは、副操縦士の吉田輝雄、スチュワーデスの佐藤友美、兵器製造会社重役の金子信雄、宇宙生物学者の高橋昌也たち10人だった。他の生存者を銃で脅して逃走した高は、岩陰でオレンジ色に輝くUFOを発見、吸い込まれるように中に入っていく。このUFOは、血液を常食としている宇宙生物ゴケミドロが、食糧源を求めて乗ってきたものだった。UFOの中で、青白い光体に吸い込まれ、顔面を細菌状の物体に犯されてしまう高。高の額が縦にぱっくりと裂け、その中にアメーバ状のゴケミドロが侵入していく。ゴケミドロに寄生された人間は吸血鬼となるのだ。そして高は生き残った人々を襲い始める。吸血鬼の魔手から逃れようとエゴを剥き出しにして醜く争う生存者たち。果たして生き延びることができるのは誰か?そして、地球の運命は?

 松竹映画といえば『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』といった市井の庶民生活を描いた「大船調」なのですが、一方で、とんでもない映画も作っています。東宝のゴジラ大映のガメラ日活のガッパに対抗して製作した『宇宙大怪獣ギララ』『男はつらいよ 寅次郎真実一路』にも登場)に続く、松竹特撮映画の第2弾。今回は、大怪獣が都市を破壊するというようなスペクタクルではなく、墜落した旅客機を舞台にした極限状況で恐怖のドラマが展開します。吉田輝雄に高英男といえば、『恐怖奇形人間』で囚人と看守を演じたコンビですが、石井輝男監督作品常連の吉田は、ここでも異常な状況下、最後まで理性を失わない、ある意味、空気を読めないキャラを演じています。この高英男という人はシャンソン歌手なのだそうですが、こんな変な映画ばかりに出て、本業に支障はないのでしょうか。

 それはそれとして、ホラー全盛の今だからこそ見てほしい映画です。苔寺と深泥池から命名されたという、観光地、古都京都を貶めきったゴケミドロの気持ち悪さもさることながら、生き残ろうと醜くもがく人たちが恐ろしい。また、争うメンツが北村英三、高橋昌也、加藤和夫、金子信雄といった濃い人たちなので、なんとなく吸血鬼に襲われた方が幸せなのではないかとも思うのですが、襲ってくるのが高英男なので、やっぱり逃げ切りたくなる恐ろしい極限状況です。そんな人間の醜さを思い切り描いたのは、『特捜最前線』でプルトニウム爆弾や娘の死を前に発狂寸前になる二谷英明を撮った佐藤肇監督。とにかく他に類例のない驚愕のラストシーンまで一気に見てしまう面白さ。このラストシーンがまた、見た者の心に一生消えないトラウマを残す絶望感満点のオチで、似たような画面でも『マーズ・アタック!』とは大違いで本気で怖いです。これに味を占めて製作された絶望シリーズ第2弾『昆虫大戦争』も、嫌な後味満点の快作ですので、是非御覧くださいますよう。


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