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ダイキチデラックス

ガス人間第一号

[監督]本多猪四郎 [出演]土屋嘉男、八千草薫  1960年


四次元の世界に展開する頭脳と科学の一大攻防戦

 私は恋愛ものドラマは見ないことにしている。くっつくか別れるかの二つに一つの結末のために紆余曲折の2時間(テレビなら3ヶ月)を我慢する気はさらさらないし、美男美女が出てきていちゃいちゃするのを見せられるなんて拷問には耐えられない。大体、私は恋愛になんて縁がないのだ。しかし!ごくごく稀に例外があるのである。それが本作だ。『美女と液体人間』『電送人間』に続く「変形人間」シリーズ第3弾にして最高傑作。今では嫌味なザーマス系おかんの役しか回ってこない白川由美(二谷英明の奥さん。リーのママ)がキレイすぎてビックリする『美女と液体人間』も面白かったけれど、完成度という点で言えば『ガス人間第一号』がダントツ。

 吉祥寺の富田銀行を襲った銀行ギャングは、三橋達也らの必死の追跡にもかかわらず、五日市街道のはずれの一軒家、日本舞踊の家元春日家あたりで姿をくらました。春日家の八千草薫は落ちぶれていたが、最近、派手なキャデラックを乗り廻し始め、絶縁関係の芸人達にも金をバラまいているという。これを怪しく思った三橋らは、強奪された銀行の紙幣のナンバーと八千草のバラまく札のナンバーが一致するのを発見、共犯容疑で逮捕した。そこへ土屋嘉男という図書館に勤める青年が、自ら犯人と名のり犯行の様子を見せると言う。三橋らの目前で、土屋は一条の白いガスに変った。彼は、人間が宇宙旅行を容易にできるための人体実験の失敗によって、いつでもガス状になることのできるガス人間にされてしまったのだ。彼は、八千草のために犯罪を繰り返す……。

 何が素晴らしいといって、踊りの師匠もガス人間も、後は滅びる(死ぬ)しかない、という絶望的な状況で展開される苦しく切ないドラマが美しい。しかも、彼女の方ではガス人間のことを愛しているわけではなく、所詮はガス人間の片想いでしかない、という点だ。くっつくでも別れるでもない結末、ガス人間と踊りの師匠との間に愛が囁かれるわけでもない、心が通じ合ってさえいないのではないかとさえ思われるのに、ここまで濃密な愛を感じさせる映画があっただろうか。ラストシーンは涙無しには見られない。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、ラストの、あの花輪が哀れな男への手向けに見えるのは私だけではないはずだ。これはもぉ、恋愛モノというジャンルに押し込められるような作品ではないのだ。とにかく一度は見ておくべし。こういうジャンルの映画は食わず嫌いされる場合が多いけれど、これこそは傑作の名に恥じない名画である、と断言するぞ。それにしても八千草薫の、この美しさはなんなんでしょう。1931年生まれの元ヅカジェンヌ。今では「はい、あなた、ポリデント」(そう言えば『盲獣』の船越英二もポリデント……)なんて言っている八千草だが、この映画(当時29歳)での美しさというのは、もぉこの世のものとは思えず、ガス人間でなくとも、ああいうふうになってしまうよなぁと大納得です。


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