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ダイキチデラックス

ドグラ・マグラ

[監督]松本俊夫 [出演]桂枝雀、松田洋治、三沢恵里、室田日出男  1988年


胎児よ胎児よ何故躍る 母親の心がわかっておそろしいのか

 本作が上映されたのは今はなきルネッサンス・ホール。京都駅前にあった、いわゆるマニア向けの映画ばかりやる小さな映画館で、奇麗なところでした。当時の京都の映画館は汚いところが多くて、特に新京極にあった菊映なんて小屋は、時代を間違えているとしか思えなかったですよ。あれはあれで味わい深くて好きだったのですが、シネコン攻勢でやられて潰れちゃいました。いくつもの映画館が潰れてしまって、シネコンばかりになって味気なくなったものです。ところで、この映画、私は並んで枝雀師匠の舞台挨拶を見に行ったのですよ。感動しましたねぇ、あの頭の形。ゴレンジャーに出ていたら間違いなく「じゃがいも仮面」って名前になっていたでしょうね。当然、そこで「代書屋」を一席なんてことはなく、松本俊夫監督とのトークで、あまり盛り上がりもしなかったのは残念でしたが。それに太田蛍一の描いたポスターが気に入って、買って帰ったらオカンに嫌な顔されましたが、テレフォンカードも今やプレミアものですな。そんなことばかり思い出すのですが、なかなか良く出来た映画です。

 ……ブウウ――――――ンンン― ―――――ンンンン……松田洋治が目を覚ますと、そこはひどく殺風景な部屋で窓には鉄格子がはめられていた。壁の向う側からは少女の叫び声が聞こえてくる。そこへ九州医科大学法医学教授・室田日出男と名乗る男がやってきた。ここは精神科病棟で、室田は前任の主任教授だった桂枝雀が死亡したため兼任したのだという。松田は自分の名前も顔も覚えていなかった。室田によれば、それは恐ろしい事件のショックのためで、記憶は自分の力で呼び戻さなければならなかった。松田は、同じ病棟にいる三沢恵里という少女と対面させられたが、彼女はなぜか自分のことをお兄様と呼んだ。松田と恵里は唐の玄宗皇帝末期の宮廷画家・呉青秀と楊貴妃の侍女・黛子の妹・芬子の子孫で深い因縁で結ばれているという。また、ある日研究室で「ドグラ・マグラ」という小説を手にした。若い大学生の患者が書いた推理物で、読んでいくうちに自分の頭がおかしくなっていくという。著者自身のほか枝雀や室田もモデルになっていた。読んでいくうちに松田の頭の中ではさまざまな過去のイメージや幻想、妄想が複雑に絡みあい、そして、松田は外へと駆け出す……。

 あの精神の迷宮小説を映画化するなんて考える方がどうかしていると思うんですけれど、鈴木清順監督作品でその実力をふるった木村威夫が手掛けた美術が素晴らしく、いい雰囲気に仕上がっています。また枝雀師匠が適役以上の何物でもなく、このキャスティングだけで成功が約束されたものと思われます。速読には少々自信のある私ですら、あの原作を読むのに実に一週間もかかってしまい、しかもすべてを理解したとは到底言えない体たらくなのですが、とりあえず原作を読む前にこれを見ておく、というのもアリなんじゃないかと思います。原作の予習ができるミステリ映画なんて他には知りません。脚本はさすがの大和屋竺。日本ミステリ映画史上稀な映画化成功作品です。


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