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ダイキチデラックス

007/リビング・デイライツ THE LIVING DAYLIGHTS

[監督]ジョン・グレン [出演]ティモシー・ダルトン、マリアム・ダボ、ジョー・ドン・ベイカー  1987年


こんどのボンドは危険なくらい野生的

 00メンバーの演習訓練中、004が殺害された。実行犯を始末したボンドだが、謎は解決しないまま、次の任務を受けることになる。KGBのジェローン・クラッペ将軍から、亡命の協力依頼が入ったのだ。ボンドはチェコスロバキアに潜入、美しきチェリストのマリアム・ダボの妨害にあうが亡命を成功させる。英国に渡ったクラッペ将軍は、先日の004殺害を皮切りに、KGBのジョン・リス・デイヴィス長官が「スパイに死を」の合言葉の下、英米スパイ抹殺を企んでいると暴露する。デイヴィス長官暗殺命令を受けたボンドだが、例の女流チェリストに引っかかりを感じ、独自にマリアムと接触する。やがて、事件の裏に国際的武器商人ジョー・ドン・ベイカーの名が浮かび上がる。実はクラッペ将軍の亡命は、公金を横領したクラッペ将軍がベイカーと結託して打った芝居であり、マリアムは捨て駒に過ぎなかった。ベイカーとクラッペ将軍の狙いは、MI6を罠にはめ、デイヴィス長官を殺害させることだったのだ。ボンドは、デイヴィス長官と組んで逆に一芝居打ち、デイヴィス長官殺害犯としてベイカーの本拠地タンジールへ向かった。ところがクラッペ将軍の罠にかかり、ボンドとマリアムはアフガニスタンのソ連空軍基地に連行されてしまう……。

 シリーズ誕生25周年記念作品。4代目ボンド、ティモシー・ダルトン初登場の快作である。私が劇場で見た最初の007でもある。もぉヨボヨボで見た目も動きも辛くなっていたロジャー・ムーアに替わり、若くてハードでシリアスなニュー・ボンド登場に皆が拍手を送ったのだった。しかし、今では手のひらを返したように、華がないだのスター性に乏しいだの蟹江敬三に似ているだのと散々な評価を受けていて、誠に腹立たしいのである。確かに濃くてデカい老け顔だし、走る姿もスマートじゃない(アバンタイトルでジブラルタルの崖を駆け下りてくる姿は不細工だった)けれど、確かな演技力に鋭い目つきは、故ダイアナ妃をして「最もリアルなボンド」と言わしめたのだぞ。それに、コネリー降板後の『女王陛下の007』、ムーアが降りたいと言った『ユア・アイズ・オンリー』のとき(そりゃ『ムーンレイカー』をやったら降りたくなるよな)にもオファーを受けていたのだから、他の誰よりもボンドに近かった俳優なのだ。

 本作は、ラストの決戦がしょぼ過ぎるといった欠点はあるものの、KGBの西側スパイ暗殺計画という久々の東西対決を背景に置き、非情なスパイとしてのボンド像、アストン・マーチンの復活(DB5じゃなかったけれど)、可愛いボンドガール(頭は弱そうだけれど)など、ファンを喜ばせる趣向がたくさん詰め込まれていた作品なのだ。だからこそ歴代最高の収益を上げたのである。続く『消されたライセンス』でハードさが一層強調されたせいで、冷酷だの残酷だの鋭すぎるだのと不評を買い、ダルトンは惜しくも、たった2作でボンド役を降りることになるが、問題は、ダルトンの個性、本来のボンド像を読み違えたうえ、ボンドが私怨を晴らすだけでスパイ映画として成立していないシナリオしか提供できなかったスタッフ側にこそあると言うべきだろう。ハード路線自体は支持されていたのだから、シナリオさえ良ければ、少々冷酷に見えようが、ファンはついてきたはずなのだ。ともあれ、本作は、007シリーズが最後に放った光だったと思う。エンディングに流れるプリテンダーズの「If There Was A Man」だって名曲だ。誰が何と言おうと、私はこの作品をこよなく愛しているのだ。


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