南シナ海の「公海上」を航行していた英国艦デヴォンシャーが、中国人民解放軍空軍のミグ戦闘機による領海侵犯の警告を受けた後に撃沈され、同時にミグ戦闘機も撃墜される。デヴォンシャーからの緊急電文を受けたばかりの英国防省らが事実関係の確認に追われている最中にもかかわらず、イギリスの新聞「トゥモロー」に、このニュースが掲載された。事件の背後には、情報操作で両国間の戦争を演出し大きな利益を得ることを狙うメディアの帝王ジョナサン・プライスがいたのだ。首相から48時間以内の事実関係の調査を命じられたジュディ・デンチは、プライスの背後を調査すべくボンドを派遣する。元カノのプライス夫人テリー・ハッチャーから情報を引きだしたボンドは、プライスのビルでレーダーの座標を狂わせるGPS暗号機を発見するが、新華社通信の記者と偽っていた中国国外安保隊員ミシェル・ヨーと鉢合わせする。CIAの協力で、デヴォンシャーがベトナム領海に沈んでいることをつかんだボンドだが、プライスにボンドとの会話を盗聴されたテリーは殺されてしまう……。
アバンタイトルの、ロシア国境における武器取引マーケットでの大活躍がすごい。撃って撃って撃ちまくり、最後は木端微塵にして終わりという大暴走。前作『ゴールデンアイ』で5代目ボンドに就任したピアース・ブロスナンがノリノリで暴れています。しかし、私は正直言って、ピアース・ブロスナンのボンドが好きではない。4代目ティモシー・ダルトン初登場をリアルタイムで体験したせいか、どうしてもダルトン贔屓になる私なのだが、それにしてもブロスナンは優男すぎないか。初代ショーン・コネリーと3代目ロジャー・ムーアのいいとこ取りをしたキャラクターであることは認めるが、できれば、もう少し骨のある感じの男前をキャスティングしてほしかった。一時はメル・ギブソンも候補に挙がっていたというが、そっちの方が良かったかも知れない。『ゴールデンアイ』はストーリーが辛気臭い上に、突如女性になったMに前世紀の遺物呼ばわりされたり、相変わらずすごい名前の敵ゼニア・オナトップ(ファムケ・ヤンセン)にカニばさみされたりと、あんまり良いところがなく、おまけにボンド・カーがBMWになったのも気に入らない。他所ではどうか知らないけれど、BMWとベンツは関西ではヤクザの乗る車である。センスとしては最低なのである。こんなもんに嬉々として乗るボンドなんか実にイヤだ。
という具合に、ブロスナン・ボンドに極めて点の辛い私が、何故この映画を紹介するかというと、これはミシェル・ヨーの映画だからである。とにかく史上最強のボンドガール。「強い」という設定のボンドガールは何人もいたけれど、ガチで強いのはこの人だけだろう。ストーリーは、二大国間に戦争を起こそうとする陰謀に立ち向かうボンドということで、米ソの宇宙船を狙った『007は二度死ぬ』、英ソ原潜を狙った『私を愛したスパイ』と同じだ。したがって、ストーリーを追うよりも、純粋にアクションだけを楽しむのに最適な作品なのである。ミシェル・ヨーの華麗なカンフーアクション、ベトナムでのバイク(これもBMW)とヘリのチェイス、敵基地内でのバトルが昔懐かしい感じのラストと見どころ満載。悪役ジョナサン・プライス、殺し屋ヴィンセント・スキャヴェリの好演、更に前作と大違いでかっこいいジュディ・デンチと脇役も光りまくり、ボンドが単なる狂言回しにしか見えないあたりも興味深い。派手になっていく一方のブロスナン・ボンドの中で、観賞に耐えうる唯一の作品と言ってもいいでしょう。