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ダイキチデラックス

多羅尾伴内 十三の魔王

[監督]松田定次 [出演]片岡千恵蔵、進藤英太郎、高峰三枝子、高倉健  1958年


ある時は片目の運転手、またある時はせむし男……しかして、その実体は!

 キング賞レースで興奮のるつぼと化している城南競馬場。本命と見られていた片岡栄二郎騎手の乗るサクラヒカリは、第4コーナーを廻ったところでスピードが落ち、結果二着に終わるが、その原因は、スタンドの屋上でレースを観ていた片岡の恋人、キャバレー「インパール」の踊子をしている萩京子が、墜落して死亡してしまったからである。偶然居合わせた進藤英太郎博士の検視によって自殺と断定されたが、これまた偶然これを目撃した片岡千恵蔵は、巧妙な殺人ではないかと深い疑問を抱く。墜落の直前、一条の光が京子を射ていたのだ。千恵蔵御大は、警視庁捜査一課の宇佐美淳也警部をうまく使って京子の死体を調べ、魔人の絵と13という数字の刺青を発見する。たったこれだけのことで、背後に国際的な犯罪団の存在を嗅ぎ取った千恵蔵御大は、絶対ばれない不思議な変装術を駆使した捜査を開始する。

 ご存知、『キューティーハニー』の元ネタでもある多羅尾伴内シリーズ第10弾にして初のカラー作品。どうも、このシリーズは、記憶がごっちゃになっちゃうのである。というのは、私立探偵多羅尾伴内が旧家とギャング団絡みの事件を得意の変装で解決したら、犯人は、いつも進藤英太郎でしたと、どれもストーリーは同じで、これといった特徴がないのだね。まぁ、見所は千恵蔵御大のコスプレなので、ストーリーなんてどうでもいいようなものなのだが、このコスプレが曲者で、まず定番の片目の運転手(免許取れるのか?)を皮切りに、真っ白スーツの手品好きの気障な紳士(ジャッカー電撃隊行動隊長番場壮吉の祖先だ!)、ベレー帽にパイプ、そしてルパシカを着込んで正に絵に描いたような画家、何故か必ずせむし男と、目立つわ怪しいわってものにばっかり変装して情報収集に勤しみ、最後には居並ぶ悪人ども(約30名)を一段高いところから見下ろし、多羅尾伴内までもが変装の一つであり、その正体がスーツの上着の裾に膝が隠れる短足男であることを明かして延々と謎解き。

 自分のやったことだから重々承知しているけれど、おとなしく謎解きを聞いてやった悪人たちは、おもむろに発砲。約30名が一斉に発砲しているのに、短足男は反復横跳びより省エネな上半身だけの動きでこれらを全部かわし、二丁拳銃の華麗なガンさばきで、一発撃てば5~6人は倒す。警察が到着する頃にはトンズラ済で、ヒロインが礼を言おうと駆けつけると、ド派手な外車(オープンカー)で去っていった後。ヒロインが、ふと横の木の幹を見ると、「この世に光はあるか。あぁ光……」てな変な詩が、目立つようにピンで留めてあり、それを読んだヒロインは感動に目をうるうるさせて御大を見送る……って、いつ書いたのだ、そんな詩を。そんなことをしている暇があったら、他にすることがいくらでもあるだろうに。「正義と真実の使徒」と言いながら、あんまり善良な市民ぽくない動きを見せる千恵蔵御大って何者?とにかく脳みそのネジが狂っているとしか思えない変な映画。必見です。後に小林旭でリメイクされた『多羅尾伴内』『多羅尾伴内 鬼面村の惨劇』も、なかなか狂っているうえに血しぶき大増量で残酷さバツグン、これまた必見の名作なので、渡り鳥しか知らない人たちは必ず見るべし。


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