ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

地獄

[監督]中川信夫 [出演]天知茂、三ツ矢歌子、嵐寛寿郎  1960年


ひたすら「許してください」という天知茂。でも許されない。

 もぉ、これ以上ないと言うほどにイヤ~な気分と「なんじゃこりゃ?」の異様な感覚を与えてくれる稀有な逸品。

 仏教大学の学生、天知茂(詰襟姿の学生ですよ、まだ髪もふさふさしているし)は、恩師の中村虎彦教授の一人娘、三ツ矢歌子と婚約し、楽しい時を過ごしていたが、大嫌いな同窓の沼田曜一に車で送ってもらうことになった。その途中、沼田は酔っぱらったヤクザ泉田洋司を轢き逃げしてしまった。天知は、たまたま同乗していただけなのに良心の呵責に苛まれ、歌子と自首しようと車を走らせる途中、事故でタクシーの運転手もろとも歌子を死なせてしまう。歌子の母は、ショックのため気が狂い、「幸子を返して、ぎゃーっ」と言いながら、夫とともに鉄道自殺する。傷心の天知だが、実家の母が危篤になったとの知らせを聞いて帰郷する。そこで、画家の大友純の娘で歌子にそっくりな三ツ矢歌子(二役)と恋に落ち、とりあえず股間はスッキリした天知を、沼田と、轢き逃げされた泉田の情婦小野彰子が追ってくる。吊り橋でもみ合っているうちに、沼田と彰子は勝手につまづいて転落死。その晩、天知の父の林寛が経営する老人ホーム「天上園」の創立記念パーティーでは集団食中毒が発生し、入所老人たちが全員死亡。更に復讐にやってきた泉田の母、津路清子が酒に毒を盛ったため、天知はじめすべての人間が悶死する。死の間際、地獄へ落ちる幻想を見た天知は、そこで会った歌子の霊から彼女が天知の子を身ごもっていたことや、その子も水子になって地獄へ落ちていることを告げられる。天知は我が子を見つけるべく、八大地獄の修羅場をさまようのだった。

 一応、地獄がメインの映画なのだが、現世で天知が酷い目にあっている方がよっぽど地獄である。なにしろ轢き逃げの罪を着せられ自首に行く途中でカノジョは死に、そのせいでカノジョの両親は自殺、帰郷すれば母親が不倫して生んだ娘と近親相姦、復讐にやって来た轢き逃げ被害者の情婦は勝手に死ぬし、被害者の母のせいで関係者は全員死亡である。天知茂を襲う不幸はほとんどが不可効力というか、要するに自分に責任なんかないことが大半を占めていて、なんで地獄に落ちなきゃいかんのか、それ自体良く分からないのだ。可哀想と言えば、これ以上可哀想な境遇はないのである。また、出てくる連中が、いろんな悪事を働いていて、地獄行きの片道切符を持った奴ばっかり。もちろん、キッチリ地獄へ行ってくれるわけですが、この程度のことで地獄に行かなきゃならないのだとしたら、天国に行ける条件ってなんなのだろう?近親相姦の三ツ矢歌子はともかく、もう一人の三ツ矢歌子って、何か罪を犯していたかしら?あぁ、結婚前に身ごもっていたことが罪なのか。で、その赤ん坊も地獄に落とされているわけだから、非情にも程がある。とにかく、この前半の現世の部分だけで生きていく活力を失わせるに充分なパワーを持った映画。見てしまった私が一番不幸なのかもしれない。

 一転、地獄編に入ってからは、若山弦蔵が渋い声でいくらがんばったところで気色の悪いチープな画面の連続というだけで中身はそれほど酷くはない。三途の川や、賽の河原などの地獄名所めぐりをしながら水子となった我が子を探すという、気分の滅入る展開です。閻魔大王役で嵐寛寿郎が出ていることをはじめ、不条理極まる展開の後、三ツ矢歌子が二人出てきて(二役だから)、ニコニコ笑ってパラソルを回しながら昇天していくというラストは、観客を理解不能の世界に突き飛ばしてくれます。私は、いまだに理解できません。結局、水子がどうなったのかも、よく分かりません。なんて不憫な子供でしょう。


copyright©Daikichi_guy 1999-2020  all rights reserved.