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ダイキチデラックス

江戸川乱歩「魔術師」より 浴室の美女

[監督]井上梅次 [出演]天知茂、夏樹陽子、高橋洋子、西村晃  1978年


美女よりも西村晃が目立つ快作

 江戸川乱歩の美女シリーズ第2作。川に浮かぶ獄門船。そこには男の生首が置かれていた!しかし、生首は、これから起こる大事件の前触れに過ぎなかった。宝石によって莫大な富を得た玉村家。彼らを狙う謎の凶賊、その名は魔術師!静養中でありながら、夏樹陽子の魅力にメロメロになって事件解決に乗り出す天知茂、探偵の中の名探偵明智小五郎だが、あっさり拉致されたうえ、水死体となって発見され、10年来の親友、荒井注警部は号泣。ついに入浴中の夏樹をも襲った凶賊に対し、天知の遺志を継いだ荒井と五十嵐めぐみが立ち向かう。魔術師が50年かけて練った復讐劇を食い止めることはできるのか?そして、魔術師が放った最後の大魔術とは?

 探偵の中の名探偵、明智小五郎と言えば天知茂!これは当然である。日本人の常識である。後を引き継いだ北大路欣也も西郷輝彦も稲垣吾郎も、この味まで引き継ぐことは出来なかったのである。ワン・アンド・オンリーの魅力、それが天知茂の明智小五郎、美女シリーズなのである。というわけで、天知主演のシリーズは、全部で25作ありますが、土曜ワイド劇場が90分だった頃に放送された作品には、明智とヒロインの甘いロマンスがまるでなく、ラストが強烈な第4作『江戸川乱歩「緑衣の鬼」より 白い人魚の美女』や、田村高廣が、こんな役でよく出演したものだと感心する第7作『江戸川乱歩「白髪鬼」より 宝石の美女』など渋い作品がありますが、荒井注演じる波越警部初登場で、実質のシリーズ開始となる本作は必見の名作です。

 本作は、後に第12作『エマニエルの美女~江戸川乱歩の「化人幻戯」』、明智役が北大路欣也に代わってからの『妖しいメロディの美女~江戸川乱歩の「仮面の恐怖王」』にも出演、叶和貴子に並んで美女役最多登板となる夏樹陽子と高橋洋子のダブル美女という豪華さ。記念すべき第1作『江戸川乱歩「吸血鬼」より 氷柱の美女』では、新東宝つながりで三ツ矢歌子が美女役でしたが、さすがにオバサンで見た目にキツかったのか、今回は、かなり若返らせて視聴者サービスに努めています。そんなエロも美女シリーズの魅力なのですが、今回は、魔術師役の西村晃に尽きるでしょう。復讐のために50年もかける情熱が、どうして魔術団の団長に帰結するのかさっぱり理解できないということはさておいて、シルクハットに燕尾服の魔術師姿も凛々しく、特に必要もないのに披露する怪しげな手品や、怨念が籠もりまくった被害者の悪行再現フィルムを見せる時の大熱演もさることながら、隠しカメラも使わず、壁から顔を突き出して明智を監視したり、投げたナイフを全部よけられて慌てたりと間抜けな姿も堂々と演じて、さすがの貫録を見せています。そんな外連味たっぷりの演技と井上梅次監督のプログラムピクチャーで鳴らした手腕が光ります。珍しく原作に忠実に進むストーリー、あの有名曲とは違ってミステリアス風味が強調された前期テーマ曲も、シリーズ後期に慣れた目で見ると新鮮です。


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