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天国と地獄の美女 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」

[監督]井上梅次 [出演]天知茂、叶和貴子、小池朝雄、伊東四朗  1982年


シリーズ最高傑作の3時間スペシャル

 江戸川乱歩の美女シリーズ第17作。天知茂、探偵の中の名探偵明智小五郎をして「私が手がけた事件の中でも一番スケールの大きい、そして一番恐しい事件」と言わしめた怪事件。「大自然を一層美しく、一層芸術的に、人間の力で作り替えたい。今まで誰も観たことのないような大理想郷を作り上げたい」それは不遇の美術工芸デザイナー伊東四朗が夢想する人口の楽園。決して叶わぬはずのその夢が、伊東と瓜二つの大富豪ベンジャミン伊東の出現により、死と恐怖に彩られた可能性を露わにする。新興宗教「薔薇密教」の教祖、小池朝雄の甘言に乗り、都合よく病死したベンジャミンと入れ替わった伊東は、300億円の費用をかけたパノラマ島建設に邁進する。そんなベンジャミンの周囲に次々に転がる死体。ベンジャミンに不審を抱く美貌の妻、叶和貴子の危惧をよそに、ついに誕生する最後の桃源郷。その中心、エロスの園の女王に祭り上げられる叶、そして、そこで天知が見た、大悲劇の恐るべき結末とは?

 「皆さん、明けましておめでとうございます。明智小五郎です」と新年の挨拶から始まる正月特番(昭和57年1月2日放送)で2部構成(「第一部:カラスの化身」、「第二部:エロスの園」)の3時間スペシャル。今回の美女には、この後、第21作『白い素肌の美女~江戸川乱歩の「盲獣」』、明智役が北大路欣也に代わってからの『赤い乗馬服の美女~江戸川乱歩の「何者」』に出演し、夏樹陽子に並んで美女役最多登板となった叶和貴子が登場。吹き替えなしのシャワーシーンやベッドシーンで思い切り裸を見せています。乳首も丸出しです。この年の3月からヒロイン役で出演の『宇宙刑事ギャバン』が始まるのに、こんなことをしてよかったのだろうか。それを筆頭に、セックス万歳の薔薇密教やパノラマ島での裸女乱舞など、いつも以上に大盤振る舞いのエロ描写が連発。おまけに伊東四朗の左目を抉ったり、宮下順子の脳天に斧を突き立てたりとグロ描写も充実と、乱歩の真髄を把握しまくった井上梅次監督の手腕が遺憾なく発揮されたシリーズ最高傑作。それにしても、これを正月2日に持ってくるのだからテレビ朝日は大したものです。

 原作の時点で「子供っぽい」と評されていたパノラマ島の描写が、想像以上にチープでキッチュで、いかにも妄想の所産という出来なのが絶妙です。石井輝男版パノラマ島である『恐怖奇形人間』にも出ていた小池朝雄の怪演も楽しく、画面を見ているだけであっという間の3時間なのですが、ストーリーのアレンジ具合が実に素晴らしい。このシリーズは、回を追うごとに原作の要素が薄まって、挙句の果てにはタイトルを借りただけという作品も多いのですが、本作は原作を生かしながら、最後に大きなどんでん返しを仕掛けており、脚本を書いたジェームス三木の見事なアレンジが味わえます。最後には当然、人間花火もやってくれますのでお楽しみに。この調子でどんどん行くのかと思っていたら、次々作『湖底の美女~江戸川乱歩の「湖畔亭事件」』をもって、シリーズ刷新の名のもと、井上監督と文代役の五十嵐めぐみが降板してしまい、魅力は一気に落ちてしまいます。その証拠に、第20作『天使と悪魔の美女~江戸川乱歩の「白昼夢」』は、本作と同じく2部構成で、高田美和、美保純、鰐淵晴子(男装の麗人!)という豪華キャストにもかかわらず、退屈な凡作になってしまっています。何のためのシリーズ刷新だったのか、村川透などという乱歩や天知茂とは全く相容れない資質の監督を担ぎ出したセンスのなさには呆然です。


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