ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

京都殺人案内 母恋桜が散った

[監督]村野宏軌 [出演]藤田まこと、本田博太郎、下元勉、遠藤太津朗  1981年


土曜ワイド劇場屈指の名シリーズ。早期のソフト化を求む。

 土曜ワイド劇場といえば、これを外すわけにはいきませんね。くれぐれもキワモノシリーズ『京都妖怪地図』と混同せぬように。まあ、あれはあれで宇津宮雅代主演の正統派怪談だった第1作「嵯峨野に生きる900歳の新妻」から、どんどん頭が悪くなっていって「1200歳の美女VS霊感デカ」に至るテレビ朝日お得意の転落コースを味わえて興味深いのですが、このシリーズも、最初からは随分と印象が変わってしまいました。

 「おとしの音やん」こと京都府警の音川音次郎。藤田まことが刑事を演じる、というと、例のはぐれ刑事を想像するかも知れませんが、シリーズ開始当初は、あんなものではありません。町でやくざを見かけたら、とりあえず追いかける。当然やくざは逃げますが、しつこく追いかけて捕まえる。捕まえたら、いきなりしばく。「何もしてへんのに、なんで追いかけるんですか」と言われたら、「何もしてへんのやったら、なんで逃げるんや」とまたしばく。狂犬です。また、捜査資料は当然のごとく勝手に持ち出して、深夜、寝タバコで推理する。そして任意同行した犯人を薄暗い取調室に残して、自分は課に戻って出前のうどんを啜りながら「きっちり落としますさかい、逮捕状用意しとくんなはれ」と余裕をぶちかます。実にハードボイルド。人情なんてものは、最後の最後に一滴だけのスパイスでいいのだよ。徹底的に犯人を追いつめる非情さを描いてこそ、最後にホロリ、が効いてくるのだ。最近では、三代目娘役の萬田久子とのやりとりが『必殺シリーズ』における中村家のシーンみたいに用もないのに定番化してきたし、遠藤太津朗とのやり取りも出張の土産に関するものだけの漫才化してしまっている。おまけにやたらと出張しすぎで、河原町を走り回っていた往年の勇姿など望むべくもない状態。というわけで、見るならハードボイルドな魅力が溢れていた初期作品がお薦め。本作はシリーズ第5作、娘役が初代、小林かおりの頃の佳作です。

 都おどりで春たけなわの京都祇園近く、円山公園のほぼ中央にある坂本竜馬像の足下で、祇園の芸妓が殺されていた。音川は若手刑事の本田博太郎を従えて聞き込みに走る。本田は音川を師父と慕う高知出身の好青年だが、出生に秘密があるらしく、京都で実父母を捜していた。捜査が始まった矢先、次々と坂本龍馬ゆかりの地で殺人事件が発生。更に被害者の名前が、坂本龍馬ゆかりの人物の名前であることが分かる。謎の連続殺人に捜査本部は焦りを隠せずにいる中、なぜか本田が単独で動き出し、密かに高知へ飛んだ。本田のつかんだ手がかりとは?単独行動を取る本田の真意は?そして、事件の真相は?

 本作は、若々しい本田博太郎の癖のない素直な演技が見られる貴重な作品ですが、やはり最大の見所は音川刑事が犯人を落とすシーン。決め手になるのが、本田の捨てられた両親への思いが綴られている卒業文集。音やんが、取調室で犯人に対し、「これを読んでみてください……読まんか!」と声を荒げて迫ります。初期作品では、犯人はみんな地位のある人間で、音やんは様々な圧力を受けながら捜査をするわけですが、取調室で初めて敬語を捨てて、怒りを爆発させるのです。本作でも、自らの地位を守るため、次々と殺人を犯した犯人が付けている勲章を指さして、「その勲章が、なんぼのもんや!」と怒鳴りつけるシーンには息をのみます。こんなに怒る音やんは、すぐ犯人の悲しみに同情してしまう最近の作品では見られません。

 このほか、音川刑事の執念が爆発する(そして、常に持ち歩いている折り畳み傘の謎も明かされる)第4作「亡き妻に捧げる犯人」(1981年放送。ゲストの三國連太郎が、また良い!)は落涙必至。なぜこの名シリーズがソフト化されないのか理解に苦しむ。なお、哀愁漂うテーマ曲はクロード・チアリ作曲。あの『ひまわり』のテーマ曲(作曲はヘンリー・マンシーニ)にそっくりで、「夜霧のシルエット」というタイトルで新録されています。


copyright©Daikichi_guy 1999-2020  all rights reserved.