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ダイキチデラックス

12人の優しい日本人

[監督]中原俊 [出演]塩見三省、相島一之、豊川悦司  1991年


もし、日本にも陪審員制度があったら……

 日本に陪審員制度があったらという架空の設定を基に、12人の陪審員がある殺人事件の判決をめぐって議論を繰り広げるコメディ。脚本は、三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ。もちろん元ネタは『十二人の怒れる男』である。昔テレビで見たな、この映画。ミステリー映画の傑作とかいうので勇んで見たけれど全然面白くなかった。ひとつには真相が明らかにならないことに対する不満で、それは真相を明らかにするのがこの映画の眼目ではないわけで、そんな不満を感じたのは若気の至りで面目ないのですが、もう一つの決定的な不満は、字幕版で見たせいで掛け合いの面白さというか緊迫感というものが感じられなかったこと。アクションも何もない密室劇、しかも内容は徹底的な討論と論証というこの映画、字幕なんかでは迫力が伝わらないのだ。これはやっぱり吹替版で見るべき映画でしょう。後年、やっとのことでみた吹替版は実に面白かった。というわけで、この映画なら全編日本語なので安心して楽しめます。

 ある殺人事件の審議のために12人の陪審員が集められた。ここに来た12人は、職業も年齢もバラバラな無作為に選ばれた人々。陪審委員長を努める40歳の体育教師の塩見三省、28歳の会社員の相島一之、49歳の喫茶店店主の上田耕一、61歳の元信用金庫職員の二瓶鮫一、37歳の庶務係OLの中村まり子、34歳のセールスマンの大河内浩、33歳のタイル職人の梶原善、29歳の主婦の山下容莉枝、51歳の歯科医の村松克巳、50歳のクリーニング店おかみの林美智子、30歳の売れない役者の豊川悦司、そして同じく30歳の大手スーパー課長補佐の加藤善博。被告人が若くて美人だったことから審議は概ね無罪で始まり、すぐ終わるかに見えたが、討論好きの相島が無罪の根拠を一人一人に問い詰めたことから、審議は意外な展開へ。有罪派と無罪派とに分裂、さらに陪審員達の感情までもが入り乱れ、被告人が有罪の線が強くなっていく。ところがその時、他の者から浮いていた豊川が事件の謎解きを始め、事態はまたまた逆転、議論はいつまで続くのか……。

 登場人物全員のキャラが立ちまくっているし、コミカルな味付けも快調。パロディとしてもかなり出来が良く、とにかく『十二人の怒れる男』を吹替版で見てから見ると、より一層楽しめます。しかし忘れてならないのは豊川悦司が何故出ているのか?……ではなくて、ミステリー的に見てかなりカッチリ作ってあるということ。圧倒的なサスペンスで迫る論証場面が元ネタに引けをとらないのはもちろんのこと、パロディの仕方についてもミステリーマニアも納得の展開が待っております。特に、被害者の最期の叫びについての推理は爆笑ものですので、お見逃しなきよう。とにかく、固唾を飲んで見守りましょう。しかし上田耕一、いい味出していますねぇ。顔が顔なので、強面のヤクザ役が多いですが、こういう少しなよっとした役も絶品です。この人が昔『超人バロム1』の声をあてていたなんて、ちょっと信じられないです。


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