ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

ラヂオの時間

[監督]三谷幸喜 [出演]唐沢寿明、鈴木京香、西村雅彦、戸田恵子  1997年


Welcome Back Mr. McDonald

 実際、鈴木京香という女優には恐れ入る。確かに美人ではあるが、いささか機嫌の悪そうな表情で、ひとりだけポツンと立っていたら、多分そんなに目立たないタイプだと思うのだが、『王様のレストラン』でのイヤなタイプの女、『なにわのべっぴん刑事』でのアクション女優ぶり、実にまぁ、どれを見ても素晴らしい存在感なのである。そして、本作での見事なおばはんぶり。これはもぉ『卓球温泉』での松坂慶子に匹敵するものなのである。というか、いまや松坂慶子に次いで日本を代表する女優といっても過言ではないでしょう。と、ほめちぎっている鈴木京香の影が実に薄く見えるほどに内容の濃い映画なのである。これは実際ただごとではない。あの鈴木京香の影を薄くするなど、いかりや長介のアップを2時間見せつづけているのに唇が気にならないというようなものだからである。

 「ラジオ弁天」のスタジオでは、まもなく始まるラジオドラマ『運命の女』の生放送のためのリハーサルが行われている。初めて書いたシナリオが採用され、この作品によって脚本家としてデビューすることになった主婦の鈴木京香は、緊張しながらリハーサルを見守っていた。ドラマは生放送で、熱海を舞台にした平凡な主婦と漁師の恋の物語。全てのチェックが済み、あとはいよいよ本番を待つばかりとなったが、直前になって主演女優の戸田恵子が自分の役名が気に入らないと言い始める。プロデューサーの西村雅彦はその場を丸く納めようとして、要求通り役名を「りつこ」から「メアリー・ジェーン」に変更した。しかし、そんな戸田に腹を立てた相手役の細川俊之は、自分の役名も外国人にしてほしいと言い出し、熱海を舞台にしたメロドラマのはずだった台本は、ニューヨークに設定を変更させられる。これをきっかけにスポンサーや他の出演俳優も次々に注文をつけだし、京香はいろいろ辻褄の合わなくなってきた台本を短時間で書き直すことになるが、素人の彼女にそんな器用なことはできず、西村はまたも急場しのぎに放送作家のモロ師岡にホン直しを依頼した。しかし、ドラマの内容を把握していない彼によって、物語はさらにおかしな方向へ向かい、あまりに勝手な台本の変更の連続に京香は怒りを爆発させ、CM中にブースに立てこもるのだが……。

 三谷幸喜得意の閉鎖空間におけるシチュエーション・コメディ。奥貫薫というキレイ、かわいい、なのにマイナーな女優(この人の持つ雰囲気は明らかに八木亜希子と同一の系列だと思う)と、ちと印象薄い西村雅彦の不倫っぽい雰囲気なんかは余計として、ダンディーに馬鹿な細川俊之、いつもの如く怪しげな井上順、カッコいいところを持っていく並樹史朗、主題歌も楽しい布施明、忘れちゃいけない渡辺謙と全員のキャラが立ちまくり。でも一番オイシイのは、おひょいさんこと藤村俊二のような気もするが、とにかく日本製コメディの大傑作。おそらく三谷幸喜は、これを超える作品を撮ることはできないだろう。見ないと大損ですよ。


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