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ダイキチデラックス

必殺仕掛人 春雪仕掛針

[監督]貞永方久 [出演]緒形拳、林与一、岩下志麻  1974年


梅安さん、仕掛人の足を洗いたくなりなすったね

 晴らせぬ恨みを晴らし、許せぬ人非人を消す。いずれも仕掛けて仕損じなし。人呼んで仕掛人。ただしこの稼業、江戸職業づくしには載っていない……。

 正月の雪の降る夜、漆器問屋の一家が惨殺された。この外道働きを仕組んだ盗賊の首領は、半年前ここに後妻に入った岩下志麻であった。この真相を知っているのは、志麻姐さんの育ての親、元盗っ人で今は堅気の花澤徳衛だけだった。花澤は、志麻姐さんを立ち直らせるには彼女の3人の子分、夏八木勲、竜崎勝、地井武男を殺すしかないと考え、仕掛人の元締、山村聰に3人の始末を依頼する。山村の命を受けた緒形拳と林与一は、竜崎と地井を倒すが、次に夏八木を狙った緒形は、夏八木が志麻姐さんの情夫であるのを知ると同時に、志麻姐さんが昔、自分が女にした女であることを知る。志麻姐さんと夏八木の罠にかかり、拷問される緒形。そのピンチを救った花澤は、極悪非道の志麻姐さんにあっさり殺されてしまう。次に志麻姐さんは大阪屋に目をつけ、手代の村井国夫を誘惑、ある雪の夜、大阪屋襲撃を決行するのだが……。

 渋い、渋すぎる。池波正太郎は、自身の『仕掛人・藤枝梅安』を勝手に殺し屋大集合にしちゃった必殺シリーズが大嫌いだったらしいですが、本作なら納得なのではないでしょうか。派手な殺しのシーンもなく、ある意味、初期必殺シリーズとも違う味わいの名品です。ストーリーから出演者から、地味なところが何ともいえない。中でも飛びぬけて地味な活躍で出番も少ない完全脇役の高橋長英が異様に良いです。また、昔馴染みを殺され、外道仕事に怒り狂った山村聰が切る啖呵「枕並べて死んでもらいやしょう」のかっこいいこと!また、緒形の「金を取らないんだったら、なおさら人殺しなんかするもんじゃありませんよ。人間、誰を殺したって、後で何か重たいものを背負い込むことになるんですからねえ」、「仕掛人は役人じゃない。もっと恨みの深い仕事なんですよ」といった裏の世界に生きることを教えるセリフや、最初は悪党相手なら無償で人殺しをしてもいいと思っていた林が、ラストには「生きていく以上、所詮人の恨みを避けて通ることはできぬ。つらいことだがな」とつぶやくなど、人生の重みを感じさせるセリフが続出。アダルトな雰囲気が横溢する必見の必殺史上最高傑作です。

 ちゃらちゃらした後期必殺しか知らないヤングにも是非見ていただきたい。地味だ地味だと言っても、そもそも「仕掛け」は暗殺なので、派手な方がおかしいのである。火薬なんか使ったら、すぐに誰かが駆けつけてくるだろうし、鈴のついた組紐を投げたりしたら、すぐに相手に気付かれてしまいますね。「仕掛け」が終わった後も、殺しの的(被害者)の死因に疑問を抱かせてはいけないのであって、仕掛人では、盆の窪に針を刺して殺した後、梅安自らが「どうしなさった……おや、心の臓が……」などといって自然死に見せかけるというシーンもありました。梅安の場合は、刺した後が目立たないということもあるのですが、たとえ明らかに他殺と分かる場合でも犯人が誰かを悟らせては駄目です。シリーズ第7作『必殺仕業人』では、殺しの前にゲン担ぎで引いたおみくじ一枚で身元が割れてしまったくらいですから、死体の首に三味線の糸が絡み付いていたり、ぽっぺんの破片が散らばったりと、すぐに犯人の目星が付いてしまうような物証を残すなどというのは論外です。まぁ、後期必殺は、そういう部分に目をつぶって、殺しの華麗さ、面白さを追求していたから別物といえば別物なんですけどね。


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