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ダイキチデラックス

必殺Ⅲ 裏か表か

[監督]工藤栄一 [出演]藤田まこと、三田村邦彦、伊武雅刀、松坂慶子  1986年


人が人を殺す だが今は、金が人を殺す

 世間では深作欣二が監督した劇場版第4作『恨みはらします』の方が評価が高いようである。必殺シリーズTV放映15周年記念作品として、シリーズ第1作『必殺仕掛人』の第1、2話を撮った深作欣二を担ぎ出し、JACの無茶なアクションも満載の娯楽大作として作られたもので、確かに面白かったけれど、千葉ちゃんとデューク真田の大活躍が目立ちすぎて、仕事人の映画とは思えないのが最大の難点。なにしろレギュラー仕事人は、主水、政、秀と、ひかる一平というお粗末さ。主題歌が「ついて行きたい」だったのも減点対象ですね。その点、本作は、シリーズをハード路線に戻そうと奮闘した(結局、失敗したけれど)第25作『必殺仕事人V激闘編』から、後期の名キャラクターの一人、柴俊夫演じる壱を連れてきたことが大きなポイント。そして、監督はアクション映画の名匠、工藤栄一、脚本にはハード必殺の功労者、野上龍雄、主題歌は永遠の名曲「やがて愛の日が」。更にキャストには飾り職の秀が復活、おまけに後期ホスト・コンビ鍛冶屋の政と組紐屋の竜が揃い踏みするなど、女性ファンの股間はもらい泣きである。

 ある日、南町奉行所同心、川谷拓三は、朝っぱらから玄関で愛妻の松坂慶子にイッパツを迫っていたが、隣に住む同僚、中村主水が通りかかったため泣く泣く諦める。いつもの調子で飛ばす拓ボンだが、両替商、成田三樹夫を強請っていたために殺されてしまう。その夜、通夜の席から行方を眩ましていた愛の水中花・慶子は、両替商組合肝煎・伊武雅刀を問い詰め、夫殺しの黒幕が伊武ら両替商組合であることを知る。伊武は先代の娘である水中花に、自分達の世界に戻って来て欲しいと告げた。数日後、そんなことも知らず主水は、知り合いの後家、山田スミ子に頼まれ、貯金の利息の取り立てに成田のもとへ出向くが、成田は拓ボン殺しをほのめかして逆に主水を脅す。一方、両替商をクビになり一家心中した岸部一徳の無念を憂いた政は、主水に成田から墓代をふんだくるように頼むが、主水の前に現れたのは、先代両替商組合肝煎の娘として今は店を受け継いだ水中花だった。水中花は金を牛耳る者の強さと恐ろしさを説き、一件から手を引くよう忠告するが、夫の仇の仲間となった水中花に主水は反発する。主水に刺客が差し向けられるようになり、更に少女を使った卑劣な罠にはめられ窮地に陥った主水は、仕事人仲間とともに逆襲に転じるのだが……。

 江戸に存在する地下金脈を巡って、闇の金融集団と仕事人が対決するのはいいが、金を貰って人を殺すという仕事人の話ではないと批判の声もある(このストーリーは野上龍雄がゴリ押ししたという噂)けれど、この壮絶な展開の前では、そんな声もかすんでしまいます。無理やり殉職させられそうになる主水というのも強烈なシーンですが(あの後、奉行所での暮らしはどうなったのだろうか?)、やはり仕事人達が次から次へと、あっけなく倒されていく(特に竜の死に方は無様過ぎ)ラストの大殺陣シーンがすごい。死ねばいいというものではないけれど、ぬるま湯に浸かったような作品が続いていた当時、これはやはり衝撃的でした。中でも、笑福亭鶴瓶演じる参の壮絶な最期こそが本作最大の見所。あんなに惨めに、しかし殺し屋としては最高にカッコイイ死に方ができて、鶴瓶は幸せ者である。主水にも、あんなふうに死んでほしかったのに……。


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