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ダイキチデラックス

0061 北京より愛をこめて!?  國産凌凌漆

[監督]リー・リクチ、チャウ・シンチー [出演]チャウ・シンチー、アニタ・ユン  1994年


この映画が007映画に似ている場面があっても「たまたま」です

 『少林サッカー』が当たるまでは、チャウ・シンチーの映画を幸せそうなアベックとか家族連れがニコニコ見ている光景なんて想像もできませんでした。なにしろ、この人の映画と言えば、香港映画でもバカ系統を愛する一部の人しか知らなくて、当然ながら『不夜城』を書いた馳星周のペンネームが、大ファンなるが故のチャウ・シンチー(周星馳)の逆綴りだという豆知識も知られておらず、マニアな好き者が人知れず楽しむアホ映画ばかり(『食神』とかね)だったのですから。本作も、そんなバカパワーが炸裂した、非常にチャウ・シンチーらしい快作です。

 中国、北京。国民の宝「恐竜の頭の化石」が、なんでもぶち抜く黄金銃を持つ謎の鉄仮面の男に盗まれた。この非常事態に人民警察司令官チャン・ポーリンは一計を案じ、今は田舎町の肉屋に落ちぶれている元スパイのチャウ・シンチーを、便器型秘密通信装置から呼び出した。彼は必殺の肉切り包丁(殺豬刀)片手に任務遂行に赴くのだ。包丁使いだけは達者だが、実のところただの役立たずの彼は、イカれた発明家ロー・ガーインらに見送られ、司令官の密命を受けた女スパイ、アニタ・ユンに会い、スパイ活動を始める。だが、アニタの本当の任務はチャウを抹殺すること。ところが彼女は彼の抹殺に失敗したばかりか、彼に恋してしまい……。

 「凌凌漆」は広東話で発音すると「Ling Ling Cha」、これを広東話の数字に直すと「007」というわけで、思い切り007映画のパロディなわけですが、あのモーリス・ビンダーが手掛けたシルエットのタイトルバックからして完璧にパクっています。それがまた笑えてしまうのだから、これは本家本元自体がバカバカしいということなのでしょうか。もちろん香港映画ですから、アクションは本家007を軽く凌駕する勢い。流血量や残酷描写も手加減なしのアジアン・クオリティですから、見ている間の爽快感は他に代えがたいものがあります。そして、バカバカしいうえに下品なギャグもてんこ盛り、とにかくお子様の教育に良くないものばかり詰め合わせた内容が、貧乏くさい映像でこれでもかと差し出されるわけですから、夜中のレンタルビデオ屋での人気も頷けようというもの。間違ってもデートのお供に出来るようなものではありません。謎の鉄仮面の造型などに予算とセンスの限界を感じないでもありませんが、ストーリーは意外に練りこんであって、カッチリしたスパイものとして楽しめるようになっています。このあたり、香港映画人の職人気質の面目躍如といったところ。ヒロインのアニタ・ユンも頑張っていますが、香港映画を見ていつも思うのは、この人たちはどうして女優なんかを志したのかということ。さすがプロとか、サービス精神旺盛とかと言えば聞こえはいいですが、こんな扱い方をされて、女優であるステイタスとかを感じられるのでしょうか。香港の女優さんは本当に大変です。


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