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ダイキチデラックス

黒蜥蜴

[監督]井上梅次 [出演]京マチ子、大木実  1962年


みなさん、明智ってステキだと思いません?

 帝都東京の暗黒街の一角で、一座から崇められる黒衣の夫人がいた。求めに応じて「宝石踊り」を舞う彼女の左腕には、黒いトカゲの刺青があった。彼女こそ、美貌の女族、黒蜥蜴である。黒蜥蜴こと京マチ子は、大阪に滞在中の大富豪、三島雅夫の令嬢である叶順子誘拐を画策していたが、三島は相次ぐ警告文をもとに、素人探偵大木実に依頼して、その身辺警護に当たらせていた。大木の妨害で順子誘拐に失敗したマチ子は逃亡するが、後日、三島の自宅から、まんまと順子を誘拐する。マチ子は、順子とダイヤモンド「エジプトの星」の交換を要求するが、受け渡し場所に現れた大木に妨害され、自家用の船で逃亡を図る。船に乗り込んだ大木はマチ子との虚々実々の駆け引きの末、隠れていた長椅子もろとも海に投げ込まれてしまう。好敵手大木を失い、激情にまかせ号泣するマチ子だが、気を取り直してアジトに戻り、順子に誇らしげにコレクションを披露する。それは美しい人間、つまり剥製化された人間の陳列だった。マチ子は、順子をその陳列に加えるつもりであると残忍に言い放つ。果たして順子の運命は?そして、名探偵大木は本当に死んでしまったのか?

 京マチ子と言えば、溝口健二監督の『雨月物語』(第14回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)、黒澤明監督の『羅生門』(第12回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞)、衣笠貞之助監督の『地獄門』(第7回カンヌ国際映画祭グランプリ)など、海外の映画祭で主演作が次々と受賞し「グランプリ女優」と呼ばれる大ベテラン。テレビでも、『必殺仕舞人』『必殺仕切人』で「お命、終わります」なんて言っていました。しかし、最も衝撃的な映画といえばこれでしょう。宝石「エジプトの星」を巡る黒蜥蜴と明智小五郎の対決という、あの乱歩原作を三島由紀夫が戯曲化したストーリーをこんな風に演出するか!監督の井上梅次は後に土曜ワイド劇場で乱歩の美女シリーズのメイン監督になるプログラム・ピクチャーの職人で、黒蜥蜴も小川真由美主演で撮った(『悪魔のような美女』)けれど、そこでも、ここまでぶっ飛んだ演出はしなかったぞ。なんとミュージカル!黒蜥蜴の部下達は、良い働きをすると「青い亀」とか「黄色いワニ」といった格式高い「爬虫類の位」をもらえるのでウキウキしており、仕事(犯罪のこと)の時でもステップを踏んでいるし、黒蜥蜴自身は警察の包囲網をくるくると歌い踊りながら逃げ、更にはカメラ目線で観客に話しかけてしまう。京マチ子ほどの大女優相手でも容赦しない姿勢で、ものすごい作品に仕立ててしまったのである。

 娘が誘拐されるかもしれないというので雇い入れた用心棒達が、おにぎりを食いながら歌う挿入歌「用心棒の歌」(♪ 用心棒ったら食いしん坊 ♪)をはじめ、主題歌「黒蜥蜴の歌」(♪ 宝石と共に寝る夜は 冷え冷えときらめく臥所 不眠症の月 凝った刺青 熱い血は下水道に流す 黒蜥蜴夕暮れの花 黒蜥蜴朝焼けの爪 町は皆倒れふす 恐ろしいその名に~♪)や挿入歌「黒とかげの恋の歌」は、自作で頑張った美輪明宏に対抗して、三島由紀夫作詞、黛敏郎作曲という右翼なコンビ。こんな『黒蜥蜴』なんて、誰が想像したでしょう?そして、さすがOSK(大阪松竹歌劇団)出身の歌と身のこなしで、その演出に見事に応える京マチ子。見た目が少々福福しいとか、おかげで妖しさが足りないとかいう声も聞こえてきそうですが、そんなこと気にならない最高の一本です!見なきゃ絶対に後悔するぜ!


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