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ダイキチデラックス

グラハム・カーの世界の料理ショー THE GALLOPING GOURMET

[出演]グラハム・カー  1968~1971年


なぁにスティーブ、あと30秒しかないの?

 もともとはカナダの料理番組なのだそうです。料理番組というのは、たいてい真面目に作られているもので、トーク能力など欠片もない料理人と、レシピを説明するための女子アナといったコンビで淡々と進められていくものなのですが、この番組は破格です。いきなりワイン片手に現れ、ほろ酔い気分で客席に語りかけるグラハム・カー。しかも下ネタ交じりの際どいジョークで、海外の奥様方の御機嫌を伺おうというのですから、およそ料理番組とは思えません。そして、後から入れたのか同録なのか分かりませんが、『奥さまは魔女』みたいな、わざとらしい笑い声がスタジオに響き渡ります。そして、紹介される料理は、グラハム自身が世界で取材してきたとおぼしきもので、「なんとかかんとか どこそこ風」というもの。この「どこそこ風」というのが曲者で、これによって、その料理が本当に正しく作られているのかどうか分からないといったような胡散臭さが漂います。

 いよいよ料理に取り掛かりますが、ここでも胡散臭さが爆発、「ちょっとスティーブ」とか誰もいない空間とのセルフボケ&突っ込みを披露、更に暇さえあれば客をいじるという完全なワンマンショー。邦題に「世界の料理ショー」と付けたのは見事です。軽薄なムードで調理が進むわけですが、手順を正確に追うなんてことはせず、ものすごく適当に作っているように見えます。およそレシピなるものが存在するとは思えません。「小さじ半分」とかいう微妙なさじ加減なんて全然していません。手づかみで、バッとね、バッと。多く入れすぎても「あ~ら、たくさん入っちゃった、まぁいいや」ってな感じで、味見してみて適当に自分でOKを出して、そのまま進めてしまう強引さ。なにしろ「どこそこ風」なんて、グラハム本人しか食べたことがないわけですから、どんな味に仕上がろうがチェックを入れる人間なんていないわけで、なんてアバウトな潔さ。

 そして、この軽薄な雰囲気を更に増す黒沢良のアフレコがすごい。洋画吹替ではゲイリー・クーパーのフィックス、また『大江戸捜査網』や『江戸の牙』等の渋いナレーションでもお馴染みの美声の持ち主、黒沢良が何故かオカマの喋り口調。もともとオカマみたいな喋り方をしているのかどうか分かりませんが、胡散臭い雰囲気を倍増してお送りする日本側スタッフの心意気が素晴らしい。出来上がった料理は美味しそうなのかどうなのかよく分かりませんが、最後に客席から犠牲者が選ばれて試食をさせられていました。どんな料理にしろ、とりあえず溶かしバターをガンガン突っ込んでいた記憶だけはあるので、カロリー抜群の外国人向けだということだけは確かです。実際のところ、料理なんかどうでもよくて、味わうべきは、胡散臭い雰囲気、これのみ!


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