ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

この子の七つのお祝いに

[監督]増村保造 [出演]岩下志麻、根津甚八、岸田今日子  1982年


憎むのよ。憎んで、恨んで、仕返しをするの。決して許しちゃだめ。

 ミステリ映画は、謎解きの部分で勝負できないのである。本質的に映画という表現形態はミステリに合わないのだ。市川崑の金田一シリーズは、その映像美が高く評価されたのであって、そういう謎解きとは違う部分でアピールできるものがないとミステリ映画は失敗するのである。では、本作の売りはなんだったのか。

 次期総理の座を狙う大臣秘書の村井国夫の元お手伝い、畑中葉子が後ろから前から殺された。ルポライター杉浦直樹が、政界の謎を暴こうと村井の身辺を探っていた矢先の事件であった。更に深入りして探る杉浦は、村井の内妻、辺見マリが奇妙な手型占いをするという噂を聞く。しかもその的中率を頼んで大物政治家、財界人等が己れの手型を持って続々と詰めかけており、村井自身もこの占いのお陰で現在の地位を築いたというのだ。杉浦は、殺人事件は放ったらかして、マリの影を追い始める。そんな仕事の合間に、後輩の事件記者、根津甚八に連れて行かれたバーのママ、岩下志麻と付き合いだして、公私ともに順調な杉浦だったが、ある日、何者かによって殺害されてしまう。根津は、危険を承知で杉浦の仕事を引き継ぎ、昔、ある麻布のバーに占いのよく当たる娘がいたこと、それがマリらしいことを突き止める。やがて根津は、ようやく謎の占いの娘の写真を発見するが、それはマリではなく志麻姐さんだった。追いうちをかけるように、根津のもとにマリが「やめてぇ」と溜息をつきながら惨殺されたとの報が届く……。

 原作は、第一回横溝正史ミステリ大賞受賞作。角川書店主催の賞で、選考委員には横溝正史本人も名を連ねていました。そして、満を持して角川映画が製作したのですが、出来上がった作品はミステリというよりも、超一級のホラーでした。といっても、お化けが出てくるといったようなものではなく、作中に渦巻くどす黒い情念が、観客を縛りつけて離さないのです。陰惨としか言いようのない救いのないストーリーを演技とビジュアル両面で支え切った岸田今日子の恐ろしいこと!そして、更に恐ろしいのは、象印婦人こと岩下志麻姐さんの三つ編み&セーラー服姿。『悪魔の手毬唄』における岸恵子、『病院坂の首縊りの家』における佐久間良子以来の伝統芸で、観客の逃げ場を完璧に封じます。この恐怖描写こそが、本作最大の売り。特に岸田今日子が布団ですやすや眠っている、あのシーンは、一度見たら絶対に忘れられない、邦画史に残る絶叫シーンです。増村保造監督、恐るべし。

 それにしても、岩下志麻、根津甚八、辺見マリ、畑中葉子、芦田伸介、岸田今日子、村井国夫、杉浦直樹、と実力派を揃えたと言えば聞こえはいいけれど、実際、地味すぎて華も何もない出演陣はどういうことでしょう。横溝という名から連想される派手な殺人も映像美もなく、名探偵の鮮やかな推理といったカタルシスもない本作で、せめてキャストくらいもっと派手にしておけばいいのにと思うのですが。辺見マリに畑中葉子って……。


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