ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

かげろう侍

[監督]池広一夫 [出演]市川雷蔵、中村玉緒  1961年


山の湯は謎と事件で超満員!

 市川雷蔵といえば眠狂四郎机竜之助が当たり役のニヒルな時代劇スターというイメージが強いかも知れませんが、ところがどっこい明るくコミカル、いや、それを通り越してC調(死語か)な役もこなす、実に器用な俳優なのでありました。俗に濡れ髪シリーズと呼ばれる『濡れ髪剣法』『濡れ髪三度笠』『浮かれ三度笠』『濡れ髪喧嘩旅』『濡れ髪牡丹』の5本(シリーズと言われるけれど続き物ではない)は「近頃はやりのファニーフェイス。ちょっとイカス」なんてセリフがポンポン飛び出し、旅芸人一座と称して人気歌手を登場させ、ムード歌謡をかけまくる明朗時代劇で、雷蔵が演じる口八丁手八丁の旅がらすがなんともカッコいい。本作は、そんな軽い雷蔵の魅力が味わえる変わり種の時代劇。なんとグランド・ホテル形式のユーモアミステリ時代劇です。

 南町奉行所同心の息子、市川雷蔵は、まだ部屋住みの身だが、酒と女とバクチに目がない道楽者。両替商泉州屋の娘で中村玉緒という許婚がありながら、今日も揚子屋の藤原礼子とも逢曳きを楽しみ、パンツを穿く暇もない忙しさ。そんな雷蔵に、「虎鮫の寅吉」という賊に盗まれた沼津藩のお家騒動にからむ人別帳を取り返せという命が下る。玉緒との仲がバレて怒り狂った礼子との別れ話をきれいに整理してもらうことを条件に、雷蔵は渋々大役を引き受け、箱根山中の福乃屋という宿に向かう。そこは、人相風体、挙動不審のいかがわしい人物で超満員だが、全員が長雨と山崩れで足止めをくっているので、「虎鮫の寅吉」がこの中にいることは間違いない。そこへ、捕物マニアの玉緒が浮気防止のためも兼ねて女中となって潜入、ふたりの推理合戦が始まるが、浪人風の伊達三郎が背中を刺されて変死、芸者風の浜世津子が湯元小屋で滅多突きにされ、キチガイ講中の愛原光一と寺島雄作が風呂場で袈裟がけに斬り殺されるという連続殺人が発生する。小田原藩の与力、堺駿二の協力で泊り客を探る雷蔵と玉緒。しかし、山崩れも回復し、足どめの解ける日も近い。果たして犯人を突き止めることはできるのか。そして、奪われた人別帳を無事取り戻すことはできるのか。

 泣かせるセリフやラブシーン、キッチリ殺陣も見せてくれて雷蔵の魅力爆発、女性ファンなら濡れまくりなのですが、ミステリ映画としても秀逸な出来。出てくる奴が全員何か隠し事をしていて、その怪しい行動が真相から観客の目を逸らす見事な演出。ひとつ解けない謎(ハサミの件)があるのですが、そんな細かいことはどうでもよく、つい口を衝いて出た言葉から真犯人の正体を見破る憎い展開、ラストではヒッチコックの『北北西に進路を取れ』をパクるなど、池広一夫監督はホントにミステリが好きなのねぇとニヤニヤしてしまいます。おまけに「むっつり右門(大友柳太朗)や若様侍(大川橋蔵)よりも凄いわ!」とライバル東映のシリーズを意識したセリフを言わせたり、「でも銭形平次(長谷川一夫)とまではいかないけどね」と大映の先輩シリーズには敬意を表したりといったネタも仕込み、玉緒が「この調子で頑張って」などと観客を期待させておいて、「そういうのは性に合わないんだなあ」と自らシリーズ化を否定してしまったのが実に残念です。


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