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ダイキチデラックス

ある殺し屋

[監督]森一生 [出演]市川雷蔵、野川由美子、成田三樹夫  1967年


俺の殺しに指図は無用!ガンもドスもいらない非情のテクニック!

 市川雷蔵の当たり役と言えば、眠狂四郎とか『大菩薩峠』の机龍之助などニヒルな役柄と、『斬る』『薄桜記』のような暗い話が似合うというのが世間一般の評価なのでしょうが、『濡れ髪三度笠』の濡れ髪の半次郎や『雪之丞変化』の昼太郎、『かげろう侍』の弥十郎のような軽い感じも魅力的で、どちらかと言うと、私はこっちの陽性のキャラクターを演じた映画の方に惹かれます。当然、時代劇以外にも出演している雷蔵ですが、目張りの入らない現代劇メイクの雷蔵は、のっぺりした顔で、なんとも締まりません。『炎上』『釈迦』(これは史劇だけど)では、その締まらない頼りない顔が良かったのですが、およそヒーローとは程遠い顔で、凄腕の殺し屋を演じたのが、この作品です。

 表の稼業は小料理屋の主人、裏稼業が一匹狼の殺し屋雷蔵は、名人芸の殺し屋として、やくざ仲間に名を知られていた。小料理屋には、ひょんなことから危機を救ってやったズベ公の野川由美子が押し掛け女中として居座っていたが、豊満な肉体に見向きもしない雷蔵をホモではないかと疑っていた。ある日、暴力団組長、小池朝雄から、敵対勢力のボス殺しの依頼を2000万円で受けた雷蔵は、仕掛人梅安よろしく得物の畳針を使って、見事暗殺に成功した。そんな雷蔵の腕に魅かれたヤクザの幹部、成田三樹夫が弟子にしてくれと頼むが、実はホモではなかった雷蔵は断る。ふられてBANZAIの成田は、火照る体を持て余していた野川と心も体もタッグを組んで、雷蔵を殺して貯めこんでいる金を奪おうと画策する。間もなく、成田が、2億円の麻薬取引を横取りする仕事を雷蔵に持ちかける。そして、野川も含めた3人で、この大仕事に取り掛かるのだが……。

 あの頼りない顔が、表情を消すだけで見事にハードボイルドになっています。目張りが入っていない分、かえって目つきに不気味さが加わって、渋くてクールでストイックな殺し屋に見えるのだから驚きです。それに、脇役には、目張りなんか関係なく人殺しの目つきをした成田三樹夫や小池朝雄、部品がいちいち大きく押し出し抜群の野川由美子といった肉食系の濃い役者たちが揃っているのに、あの薄すぎる顔で対抗し、決して引けを取らない雷蔵というのは大した役者です。自分を裏切った相手に、「色と仕事のけじめのつかない男は御免だな」とクールに言い放つなど、小鉄が月の輪の雷蔵と名乗りたくなるのも分かるカッコよさです。続編『ある殺し屋の鍵』では、設定上は別人ながら、表の稼業が日本舞踊の師匠というホモ疑惑倍増の殺し屋として登場、西村晃、佐藤友美、山形勲といった、これまた濃い顔の面々と渡り合っています。


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