ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

生首情痴事件

[監督]小川欽也 [出演]鶴岡八郎、火鳥こずえ、高月絢子  1967年


伝説の大蔵ポルノ怪談映画

 これが噂の大蔵映画。文芸大作路線で伸び悩んでいた新東宝を大衆娯楽路線に転換、超低コスト、ハイリターンを身上とし、強烈なタイトルで客寄せという見世物の原点に立ち返った映画づくりを実践して、挙句の果てには倒産に導いた最後の社長、大蔵貢。とうとう新東宝を追い出された、このオッサンが自ら興した大蔵映画。晩年の新東宝路線を引き継ぎ(て言うか、自分で打ち出したカラーなんやから当然なんやけど)、エログロといかがわしさに拍車をかけています。その意気やよし!というわけで、大蔵映画お得意のポルノ怪談です。

 資産家の教授の娘、火鳥こずえと結婚した鶴岡八郎は、実は愛情などなく、初めから財産目当てだった。鶴岡は顔を火傷して包帯女になった愛人、高月絢子に「愛しているでしょ?私を抱いて!抱いて!」と迫られながら、妻を殺害して財産を奪う計画を立てた。堕胎や闇の診療に精通し、看護婦を情婦にしている悪徳医者を巻き込み、妻があたかも神経衰弱にかかったかのような仕掛けをする。そして、鉄道自殺に見せかけるため、睡眠薬を飲ませて線路沿いに放置する。こずえは轢殺されるが、何故か死体の生首だけが発見されなかった。こずえの生首は、やがて怨霊となり、財産を手に入れた鶴岡と絢子に復讐を始めるのだった……。

 エログロポルノ怪談とはいえ、ストーリーは至って普通で、登場人物が醜く殺し合うラストシーンまで、全編にわたって人間なんて所詮、色と欲だけの生き物だ、という真理を描き、因果応報を謳いあげます。映像的にも頑張っていて、神経衰弱の妻が見る悪夢の場面とか目玉や唇の異様なアップなどは、蛇がうじゃうじゃ出てくるシーンよりも嫌悪感、恐怖感を煽っていて、妙にセンスを感じさせます。ちゃんとブルーバック合成なんかも使っているものの、全体を覆う身も蓋も無い「安さ」加減はどうでしょう。白黒映画なのに、ベッドシーンと殺しの流血シーンだけカラーになる分かりやすさ。パートカラーと言えば、浦辺粂子が「お嬢様!虹が!虹男が!」と叫んで絶命する『虹男』が有名ですが、あの作品では虹をカラーで見せることに意味があったのに対し、本作では、観客のスケベ興味を引くためだけに使われているという潔さ。そして、ベッドシーンになると流れる「いかにも」な安いテナーサックスの音色。そうやって盛り上げないと、乳も何も映らないエロ詐欺を糾弾されてしまうという監督の焦りが見え隠れして誠に興味深い。しかし、大蔵エログロと大いに喧伝されているのに、あの清潔さはどうだろう。そして、ラストの清らかで神々しい昇天シーン(と音楽)には、これだけ陰惨で鬱陶しい話を見せつけられてきただけに、思わず「めでたし、めでたし」と言ってしまう清々しさがあります。スケベなニーズには応えられませんが、なかなか面白い珍作です。


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