ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

みな殺しの霊歌

[監督]加藤泰 [出演]佐藤允、倍賞千恵子、應蘭芳、中原早苗、沢淑子、菅井きん  1968年


寄ってたかって、一番きれいなものを滅茶苦茶に壊しやがって!

 高級クラブのマダム應蘭芳が凄まじい暴行を受けた末にメッタ刺しにされる事件が発生。その葬式に現れた蘭芳の友人、大会社の重役夫人・中原早苗、人気評論家・菅井きん、銀座の高級麻雀店支配人・沢淑子、老舗呉服屋の女将・河村有紀は、蘭芳が死の直前に犯人に強要されて書いたと思われるメモに、自分達の名前と住所が書かれていることでビビりまくり。彼女らは、ブルーフィルムの秘密上映会の現場に偶然遭遇してしまったクリーニング店店員の清を好き放題にもてあそび、自殺に追いやった過去があったのだ。一方、ある小汚い食堂に、無愛想な佐藤允が現れる。彼こそ蘭芳殺害の真犯人だった。彼は、浮気をした妻を殺して逃亡、都内の工事現場に潜伏していたのだが、荒んだ逃亡生活の中で純粋な心を持つ清に出会い、彼との交流だけを唯一の楽しみとしていたのだ。清を死に追いやった者達と、清の貞操を守れなかった自分に対する怒りを股間に漲らせ、佐藤は復讐を開始したのだった。そんな佐藤だったが、食堂で働く倍賞千恵子が、切羽つまった情況で暴れ者のやくざの兄を殺し、執行猶予中の人間と知る……。

 佐藤允といえば『独立愚連隊』が代表作なのでしょうが、関西人にはやはり『部長刑事』の印象が強い。ショスタコーヴィチの交響曲第5番が流れる怖い怖いオープニング、土曜夜のゴールデンタイム(裏番組は『クイズダービー』)にふさわしからぬ重々しいドラマは忘れられません。あのあくの強い顔で捜査されたら、どんな犯罪者も逃げ切れるはずがない。それでも一応法の番人だった部長刑事とは違い、今回はバリバリの前科者なので、誰に何の遠慮もなく獲物を追い詰めます。セレブのオバハンどもを次々に誘惑し、思うさま犯してブチ殺すという趣味と実益を兼ねた復讐を遂行するのですが、欲求不満のオバハンどもには、むしろ喜びを与えることになっているような気がして、果たして復讐として機能しているのかどうか疑問です。特に菅井きんに対して、このような復讐方法を採るのは、佐藤としても躊躇するところがあったのではないか。その証拠に、菅井きんだけ誘惑されもせず犯されるエロシーンもなく、いきなり血まみれの死体写真が映るだけで処理されています。『緋牡丹博徒』『江戸川乱歩の陰獣』を撮った加藤泰監督ですら、菅井きんが犯されるシーンは撮りたくなかったのでしょう。だったらキャスティングしなきゃいいと思うのだけれど、「私、あのときはいつも失神するの」の失神女優・應蘭芳、鉄火肌の中原早苗(深作欣二夫人)、加藤監督とデキていたという沢淑子、唯一しっとり風味の河村有紀までがエロ担当、菅井きんはグロ担当と割り切っていたのかも知れません。

 それにしても本編のヒロイン、倍賞千恵子(1941年生まれ、当時27歳)の可愛さといったら尋常ではないのです。『男はつらいよ』のさくら役が代表作だけれど、あのシリーズをまともに見たことのない私にとっては、『宇宙大怪獣ギララ』の主題歌を歌ったり、劇場版『機動戦士ガンダム』では何故かアムロの母カマリアの声を当てたり、復活ゴジラの音楽担当だった小六禮次郎の奥さんだったり、倍賞美津子の姉だったり(ということは、つまりアントニオ猪木の元義理の姉)と不思議なイメージのある女優さん。そんな下町の太陽の影ある魅力が爆発で、救いようのないドラマを一層絶望のどん底に叩き落としてくれますので必見!


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