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ダイキチデラックス

鉄人28号 白昼の残月

[監督]今川泰宏 [出演]くまいもとこ、粟野史浩、牛山茂、稲葉実、鈴木弘子  2007年


死んだはずだよ、お富さん……

 4回目のアニメ化だったテレビ版(2004年、テレビ東京系で全26話放送)は、『太陽の使者』だの『超電導ロボFX』だの、いろんなアレンジをされた奴とは違い、原作のテイストそのままのキャラデザインや時代設定、おなじみのテーマ曲(エンディングもテレビ第1作の歌を復活させた)からして、原作に忠実にアニメ化するのね、と思いきや、放送時間は深夜、おまけに監督は『機動武闘伝Gガンダム』の、『ジャイアントロボ THE ANIMATION』の今川泰宏監督なので普通に作られるはずもなく、痛快冒険活劇かと思わせたのは第1話冒頭のみ、後はひたすら暗い話が続くのでした。

 太平洋戦争末期、大日本帝国陸軍によって秘密兵器として開発された、という原作の設定を生かしに生かしまくり、鉄人をヒーローロボットではなく単なる兵器として描写。♪良いも悪いもリモコン次第♪どころの話ではなく、兵器なんだから悪に決まっているという扱いは清々しいほど。鉄人は戦争の象徴、戦争に関わった人々の心の闇を映す鏡として現れ、関係者を断罪しまくるのです。レギュラーであり、良心の象徴みたいなキャラクターである敷島博士まで絶望のどん底に落とし込んだ15話、16話(俗に言う「京都編」)では、エンディングテーマにチェリッシュのデビュー曲「なのにあなたは京都へゆくの」(1971)を使ってムードを盛り上げたり、戦争に直接関わってない世代である主人公、正太郎少年の精神まで徹底的に追い詰め、衝撃以外の何物でもないラストまで突っ走る鬱展開は、見た者の心に大きなトラウマを残したのでした。

 で、満を持して登場(あの腐れ実写版のせいで公開が遅れた)の劇場版。敗戦後、10年を経た東京。ある日、正太郎以上に巧みに鉄人を操る謎の青年、ショウタロウが南方から帰国。彼は、金田博士から鉄人の操縦者として特訓を受けていたが、出撃できなかった「悲劇の軍人」であった。そんな折も折り、東京中に非生物だけを破壊する大量破壊兵器、廃墟弾が埋まっていることが発覚。また、「正太郎に鉄人を持つ資格なし」という書置きを残して殺人事件を起こす謎の傷痍軍人「残月」が現れ、やがて、その魔手が正太郎に迫る……。

 金田博士は、またまた恐ろしい兵器を開発したり、浮気して子どもを産ませたりして、息子の心を傷つけまくります。こいつこそ真っ先に断罪されるべきマッド・サイエンティストだと思うのだが(大体、なんで廃墟弾なんて代物を東京中に埋めているのだ?)、死んじゃっているだけに始末が悪い。戦争なんてものは、生き残った者が永遠に尻拭いをしていかなきゃいけないのね、という絶望的な真実を暴きだして痛快です。「残月」の恐るべき正体(これは本気で怖いです)が明かされ、挙句の果てにはデビルガンダムみたいな化物まで登場、落涙必至のラストまで、ロボットアニメとしての爽快感なんか望むべくもありません。おまけに音楽に伊福部昭を担ぎ出し、『ゴジラ』と同じ反戦映画としての風格を高めております。完全に子供番組の枠を逸脱した作品、全世界の人々に見てほしいですね。特にアメ公!これを見て戦争の悲惨、残酷というものを勉強しろ!


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