ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

美女と液体人間 完全盤

[音楽]佐藤勝  1995年発売


裸女にせまる殺人鬼!

 まず、英語タイトルを見てください。THE H-MAN。まさか、すけべな奴って意味じゃないですよ。なんでしょうね、このHって。「液体」って、英語じゃリキッド(Liquid)だからHじゃないし。ご存知の方、メールください。次にジャケット全体を見てください。おどろおどろしくてモダ~ンでオシャレですね。白川由美が恐怖に慄いています。スクリーム・ヒロインって奴です。予算がなかったのか、映画はカラーなのに、敢えてモノクロ写真を使っているのが、大きな効果を挙げています。素晴らしいデザインと言えましょう。これを見て買う気が起きなきゃ、サントラには向いていないと言わざるを得ませんね。

 さて、このアルバムは、その筋の人なら知らぬ者のないS.L.C.=サウンドトラック・リスナーズ・コミュニケーションズから、「東宝特撮映画音楽全集」の記念すべき第1弾として発売されました。この作品を1発目に持ってくるだけでも驚きなのに、他には『ガス人間第一号』だの『マタンゴ』だの『白夫人の妖恋』だのというマニアックなアイテムを揃えています。すべて1作品1アルバム、堂々「完全盤」と銘打ってのリリースです。特に『白夫人の妖恋』なんて、見た人もそれほど多くないでしょうに、よくもまぁ出したもんだと感心します。大英断というか無謀というか、ターゲットは狭く深くということでしょうか。

 それはさておき、中でも佐藤勝が音楽を担当したこの1958年作品、極めて完成度が高いです。佐藤勝は、伊福部昭に次いで多くのゴジラシリーズの音楽を手がけた人で、かの名曲「メカゴジラのテーマ」の生みの親です。他にも、黒澤明や岡本喜八監督作品で活躍した、我が国を代表する作曲家です。

 この作品では、まず、液体人間関係の気色悪い曲がいい。使っている楽器はミュージック・ソウ……びよんびよん伸びる鋸ですね。「お~ま~え~は~あ~ほ~か~」のノコギリ、で「あぁ、あれか!」と膝を叩いた方、あなた、関西人ですね?そうです、横山ホットブラザースが使っている楽器です。「ブラザーズ」じゃなくて「ブラザース」ですよ。ここんとこが重要です。

 そして何より、主役の白川由美がクラブの歌手という設定なので、クラブ用のBGMが充実しています。背景音楽としてのジャズが素晴らしい!コンボでスイング!そんじょそこらのジャズ・アルバムを聞いてる暇があったら、これを聞きたまえ!また、ジャズ・シンガーで、大橋巨泉の初代奥さんであるマーサ三宅が白川由美の吹き替えで歌ってたりするので本格的です。佐藤勝だけでなく、昔の作曲家さんは(進駐軍との関係なのか)ジャズ畑の人が多いですから、サントラファンとジャズファンは重なると思うんですが、いかがでしょうか。

 映画の出来としては、同じ「変形人間シリーズ」の『ガス人間第一号』(音楽は宮内國郎。後に『ウルトラQ』『ウルトラマン』に流用されます)に、ちょいと差をつけられてしまいましたが、音楽はこっちの方が断然素晴らしいと思います。


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