ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

JAZZ SAHARA

AHMED ABDUL-MALIK  1958年


アラビアン・ジャズの名盤

 ジャズ界では「リトル・ジャイアント」なんて言われているテナー奏者、ジョニー・グリフィンが参加していて、リリース元はジャズの名門レーベルRIVERSIDE。でも、タイトルには「MIDDLE EASTERN MUSIC」って書いてあります。中東の音楽ってことですが、それってジャズなんでしょうか。しかし、まぁ、何事も変り種って奴がなかったら、この世はなんとつまらないことか!はみ出しっ子万歳!あばれはっちゃく!「レッテルを貼る」というと悪いイメージの言葉として使われますが、実際レッテルがなかったら非常に困るものです。このアルバムにしたところで、「ジャズ」として扱われてなかったら、聞くことはなかったでしょう。

 というわけで、このアルバムでリーダーを務めるアハメッド・アヴドゥル・マリクという人は、ベーシストとしてアート・ブレイキー、ランディ・ウエストンらと活動、セロニアス・モンクとも『ミステリオーソ』で共演しています。『ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ』でもベースを弾いてるんですが、なんでも、ズートが呼んできたらしいです。それなりに実力のあった人なんでしょうね。ところが、50年代中盤からは、ベースだけでなくウードも手にするようになり(もともとブルックリンのスーダン・コミュニティの出身)、この楽器を使って、非西洋音楽の要素とジャズとの融合に力を入れました。このアルバムでは、ベースとウード、両方弾いてます。

 ウードというのは、ジャケットに映ってる、この楽器ですね。中東から北アフリカのモロッコにかけてのアラブ音楽文化圏で使われる撥弦楽器(何らかの方法で弦をはじく(撥)ことによって音を出す楽器)で、リュートや琵琶に非常に近いものだそうです。アラブ音楽の基礎となる楽器で、「楽器の女王」と呼ばれており、中世には音楽理論の研究、現在では、子供への音楽教育に広く用いられているとのことです。共演にもジャズに馴染みの薄い楽器が並んでいて、お馴染みなのはテナーとドラムくらい。後はバイオリン、タンバリン、カヌーン(アラブ音楽で伝統的に使われる撥弦楽器。台形の箱に多数の弦が張り巡らされており、それを日本の琴(厳密には箏)のようにつまびいて演奏する。ウードと並んで、アラブ古典音楽で使われる代表的な楽器らしい)、darabeka(パーカッシヴ・ドラムってことなんですが、なんなんでしょう?)という編成。

 一時期流行ったラガ・ロックみたいに「ちょっと中近東っぽい感じ出してみました~」なんて中途半端なもんじゃありません。アラブ丸出しの音楽です。妖しいアラビア音階と洗練されたモダンジャズの組合せ。ジャズ評論家の油井正一曰く、「ニグロ・ミュージックにはアラビア音楽の影響がある」とのこと。難しい薀蓄はともかく、なかなか気持ちよい、ドラッグ感覚溢れるアルバムです。いや、そもそもレッテルだのジャンルだのというのは、店頭に並べるときとかは有効ですが、音楽の中身を語るのには何の意味もないのです。さぁ、アラーの神に感謝を捧げましょう!イーシャラー!


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