ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

LIVE AT THE LIGHTHOUSE

GRANT GREEN  1972年録音


間違ってもジャケ買いできない大名盤

 ジャズ・ギタリストとして最も偉大なのは、ウェス・モンゴメリーではなくて、このグラント・グリーンではなかろうか。ジャズ・ギターの祖としてウェス・モンゴメリーの名を挙げるのは間違いないだろうけれど(チャーリー・クリスチャンは?とか言わないように)、ビ・バップからモード、ジャズ・ファンクに至るまで、様々なジャンルで活躍したという点でも、もっと評価されていい人だと思うんですが、どうなんでしょう。まぁ、そういう「一途じゃない」ところが、日本の偏屈なジャズファンに受けが悪いのか、代表作と言われたり、ガイド本で紹介されたりするのは、ベイビー・フェイス・ウィレットと組んだオルガン・トリオの『グランツ・ファースト・スタンド』(1961)、ハービー・ハンコックとゴスペルを演奏した『フィーリン・ザ・スピリット』(1962)、デューク・ピアソン、ボビー・ハッチャーソン、ジョー・ヘンダーソンと一緒の『アイドル・モーメンツ』(1963)、ビートルズ・ナンバーを演奏した『抱きしめたい』(1965)あたりの60年代前半のブルーノート・レーベルの作品に限られてしまっている。こういう作品群しか紹介しないのが、いかにも硬直しまくったジャズ業界を象徴している気がしてならない。ブルーノートのアルバムって、つまらんのが多いと思ってるような私はウェルカムしてもらえんのです。

 でも、ルー・ドナルドソンによれば、グリーン自身はジャズではなく、いつもリズム&ブルースを聞いていたらしく、自分のことをジャズ・ギタリストだと思っていなかった節があって、作品を聞いていると、そんな本性が現れる60年代後半以降の、ジェームス・ブラウンに影響を受けたファンク・スタイルの演奏の方がはるかに面白い。ビブラフォンやらエレクトリックピアノやらを従えて、『キャリーン・オン』(1969)、『アライブ!』(1970)、『ヴィジョンズ』(1971)、『シェイズ・オブ・グリーン』(1971)と快進撃。特に『ヴィジョンズ』は、あの大名盤『ライブ』のビリー・ウッテンとともに、シカゴ、カーペンターズやジャクソン・ファイブ、挙句の果てはモーツァルトの交響曲第40番ト短調まで演奏する強烈なアルバム。この辺りを聞かないのは実にもったいない。どう聞いても、ファンク路線に移行してからの方がノリノリで演奏しているのが分かりますから。初期作品だけ聞いてるなんて、鶏肉を食うのに皮を食わないようなものですよ。

 さて、本作は素晴らしいジャケット・デザインで有名なブルーノート・レーベルにもかかわらず、この笑わそうとしているのか怖がらせようとしているのか、いずれにせよデザイナーの発狂具合がこの世のものとは思えないジャケットで120%大損しているアルバムです。ブルーノートからジャケットを取ったら何が残るんだっていうのが私の偽らざる感想ですが、このジャケットの酷さは神の領域。店頭でこれを見て「買おう!」と思うような人は「よっぽど」の人だと思いますが、ここは目を瞑って是非手に取っていただきたい。テンポの速い曲が多いせいか、同じライブ盤でも『アライブ!』よりノリノリかつ派手派手な魅力が炸裂しています。サックス、ドラムスのほかに尋常ではないベース、オルガン、ビブラフォン(ビリー・ウッテンではない)、パーカッションが徹頭徹尾突っ走りまくります。色物、ゲテモノと笑わば笑え。これを聞かずに済ませて正統派ジャズファンを気取ったところで何の得にもならないぞ。食わず嫌いをやめることから、真の快楽追及が始まるのです。


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