ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

A TRIBUTE TO COURAGE

RUFUS HARLEY  1967年録音 ATLANTIC原盤


おチビちゃん、笑った顔の方がかわいいよ

 汚い頭陀袋に珍妙な管が何本も生えている異様な物体。おまけに、それを担いでいるのは脛毛ボーボーの足をタータンチェックのスカートの下から生やしたむくつけきオッサン。そんな美しくない姿でお馴染みなのがバグパイプである。もっとも一般的な日本人なら、『キャンディ・キャンディ』のおかげで、もう少し美しいイメージを抱いているかもしれない。そう、『キャンディ・キャンディ』の丘の上の王子様ことウィリアム・アルバート・アードレー大叔父様が持っていた楽器がバグパイプなのだ。まぁ、『キャンディ・キャンディ』が原作者・水木杏子と作画者・いがらしゆみこが著作権でもめたので封印されてしまったので、ナウなヤングには分からないかもしれないけれど、卑しい生まれのくせに最初はアンソニー、そいつが自分のせいで死んだら次はテリィに乗り換え、最終的には大金持ちのアルバートさんとくっつくという尻軽ビッチな物語。そりゃイライザも苛めるわな。そんなケッタクソ悪い漫画でも、連載開始の1975年から四半世紀以上にわたって日本人のバグパイプ観を支配し続けてきたのは間違いのない事実だ。しかし、実際の演奏を聞くと、およそロマンともメルヘンとも感じられないチャルメラみたいな情けない音で脱力必至なのである。

 というわけで、ゲテモノ・ジャズ・シリーズ。今回はゲテモノの極北、バグパイプである。なにしろジャズで使用されるのが珍しいどころか、そもそもバグパイプの主戦場がどこか分からないし、バグパイプで演奏された曲なんてものを聞いたことがない。ゲテモノ・ジャズは楽器の音色が勝負という部分が大きくて、スチールギターにしろスチールパンにしろ、それ自体美しい音を持っていると少々変な演奏でも聞けるのだが、バグパイプはこの点で大きなハンデがある。しかもオリジナル曲がほとんどなので外す確率かなり大なのだが果たして……とビビっていたが、これが意外や熱い名盤なのだった。

 アルバムタイトルはカタカナで書くと「カレッジ」だが「大学 college」ではなくて「勇気 courage」。人間賛歌は「勇気」の賛歌ッ!!人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!!というわけで、ケネディ大統領、マルコムX、モハメド・アリ、ジョン・コルトレーンと当時のアメリカ社会の「勇気ある者」たちに捧げて書かれた曲がずらりと並んでいる(ここでコルトレーンが同列に並ぶのがいささか解せない)。でも、つかみが大切なので、一曲目はボビー・ヘブのソウル・ヒット曲「Sunny」。へろへろチャルメラ音のバグパイプで大丈夫かと思いきや、オリヴァー・コリンズのピアノとビリー・アブナーのドラムがガンガンに頑張っているのでノリノリで聞けてしまう。オリジナル曲でもピアノとドラムが大活躍で、ぐいぐい引っ張ってくれます。それにバグパイプ一本やりでなく、フルート、サックスも使ったあたり聞き手のことをちゃんと考えている。ある日突然バグパイプに目覚めただけで、もともと、こっちの方が専門なので安心の演奏だ。ローランド・カークとかユセフ・ラティーフとかが好きな方なら一聴の価値あり。もちろんゲテモノ好きのあなたにも。


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