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ダイキチデラックス

PANORAMA STEEL ORCHESTRA

PANORAMA STEEL ORCHESTRA  2004年


独特の湿気を感じさせる廃物利用の楽器

 スティールパンは、カリブ海最南端の島国トリニダード・トバゴ共和国(リンボーダンスでも有名)で発明された民族楽器です。スティールドラムとも呼ばれるゴミ再利用ドラム缶から作られた(石油を入れるドラム缶を真横に切ってひっくり返して底に凹凸をつけただけの)エコな打楽器で、電気的な細工は一切なく、「20世紀最後のアコースティック楽器」とか「シンセサイザーと並ぶ20世紀最大の楽器発明」とか言われています。1992年には、トリニダード・トバゴ政府から「国民楽器」として正式に認められたという代物。

 その音色は雨上がりのイメージでしょうか。スカーッと晴れてるんじゃなくて、あくまで雨上がりの湿気って言うか、憂いみたいなものを感じさせますね。しかし、雨といっても、じとじとしてるんじゃなくて、スコールですね。愛のスコールってご存知ですか。宮崎県の南日本酪農協同ってご存知ですか。まぁ、あれはデンマーク語で「乾杯」って意味なんですが、カルピスソーダより早かったんですよ。それはさておき、雨上がりで、虹がきれいに出ていて、雨露がアジサイの花に(トリニダード・トバゴにアジサイがあるかどうか知りませんが)キラリと光っているみたいな感じ。そんなイメージを喚起させる清涼感溢れる音色です。

 で、このアルバムは、そのスティールパン奏者プロ・アマ混合30人編成(更に増えていっているらしい)のパノラマ・スティール・オーケストラの1stアルバム。率いるはスティールパン奏者、コンポーザーの第一人者である原田芳宏。独学で演奏を習得し、トリニダード・トバゴの首都ポート・オブ・スペインで毎年開催されているスティールパンのコンテスト「World Steelband Festival『PANORAMA』」に日本人として初めて参加した人だというのだから筋金入りです(バンド名の由来は、これかも知れません)。saigenji(サイゲンジ。日本人ですよ)をヴォーカルに迎えたブラジリアン・スタンダード「Aquarela Do Brasil」とか、アントニオ・カルロス・ジョビンの「ジェット機のサンバ」、ジャクソン5の「I WANT YOU BACK」なんてのをカバーしています。

 そんなのもいいんですけど、小笠原民謡「URAME」を演奏しているのなんかが意外にいいんです。ゲストヴォーカルに男女ユニットPort of Notesの畠山美由紀を迎え、ものすご~く静かでゆったりした演奏なんですけど、これがなかなかハマってます。このあたり、憂いを感じさせつつ爽やかっていう楽器の特質を生かして、日本ならではのテイストが加えられていていいですね。全体的に、もう少し演奏に華やかさというか派手さがあってもいいような気がしますが、和み系のアルバムとしては、上々の出来だといえるでしょう。ただ、録音が良くないのか、全体に音が籠もっているように聞こえるのが残念なところ。もっとクリアに録音されていれば、更に楽しめたのになぁ。


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