ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

TEMPO FELIZ

PECOMBO  2006年


シャバダバ・スキャット新世代現る

 スキャット、コーラスの帝王といえば、今も昔も伊集加代子なのであります。『ルパン三世』(山下毅雄版大野雄二版も)や「ネスカフェ・ゴールドブレンド」など参加楽曲は数千といわれ、『クラシック・イン・ボサノヴァ-乙女の祈り-』なんていう名盤もあるのですが、一体この人は何年トップを走り続ける気なのでしょうか。こないだもテレビを見てましたら、『アルプスの少女ハイジ』の「おしえて」を歌った後、『11PM』のテーマをうなり、挙句の果てには「タッチ」を歌う岩崎良美の後ろでコーラスまでやってましたが、全然声が衰えていなかったのがすごかったです。というより、あそこまでいくと気色悪い。由美かおるの入浴シーンに通じる不気味さがありますな。妖怪変化の類ではありますまいか。早く誰かが代替わりしてやらないと、死ぬに死ねないといったところでしょうか。

 といったような懸念がスキャット界を覆う今日この頃、忽然と現れたのが、このペコンボなのであります。ペコ、りえ、Maki, Waka, Hacchan'によって2002年に結成された男女混声5人組スキャット=コーラス・グループ。ジャズやボサノヴァをベースにしつつ、フレンチ・ブラジル・アジア・ラテンなど世界のトロピカルな音楽やダンスミュージック、ヨーロッパ映画音楽等をスパイスに効かせ、カフェ・カルチャーのフィルターを通して日本語やスキャットを絡めながらスタイリッシュで華やかに仕立てたワールドワイドなコーラス・サウンドは、21世紀トウキョウ発のナウなシャバダバ・ミュージック、だそうです。そんな理屈はともかくとして、なんて気持ちよい響きなのでしょう。これは彼らのファースト・フル・アルバム。バックにオルガン、ヴィブラフォン、アコーディオンにスティールパンなんて私好みの楽器をはべらせて、バリ(ケチャですよケチャ)で沖縄な感じまで醸し出しているけれど、主役はやっぱり声。人間の喉というのは、こんなにきれいな音を出せるんですねぇ。世間で、やれ歌姫だのディーバだのと持て囃されているけれど、実は声量が豊かなわけでも音域が広いわけでもなく、酸欠気味の高音しか出していないだけの連中に爪の垢でも煎じて飲んでほしいものです。

 2008年にMakiが、2009年にWakaが脱退し、現在では女性2人+男性1人に減ってしまっていて、例によって例のごとく、私の好むアーティストは静かにフェイドアウトしていくという呪いがかかってしまっているような気がして申し訳ないのですが、せっかく現れた新人なんですから、元気に活動を続けてほしいものです。この見事なハーモニー、コーラスワークが聞けなくなるのは本当にもったいないことです。というわけで、春から初夏(初夏なんて季節、最近は感じなくなりましたけど)にかけて、身を任せるには最適な音楽でございます。


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