ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

IN A SILENT WAY

MILES DAVIS  1969年録音


ジャズ殺害事件 さらば愛しきアコースティック

 ジャズは、既に死んでいる。ひでぶ!死んだ、というのは、これ以上発展しようがなくなっちゃっている、という意味だ。いくら新人が出てきたところで、やれることは先人のコピーだけ。たとえ現役ミュージシャンが一千万人いたところで、新しいものなど何も生まれてくるはずはない、ということだ。ジャズという音楽にノスタルジックな要素が絡むのは、そういう理由による(それ自体がいけないことだと言っているわけではないので念のため)。

 では、死亡推定時刻は?これは、ジャズがロックやなんかと結合してフュージョンなるものが発生した時点である。そもそもフュージョンの発生というのは、「もう今までみたいに酒屋ってだけじゃやっていけねぇ!」ってんでコンビニに商売替えしたようなものなのである。だから、店によって酒屋的要素とコンビニ的要素の配分に差があったりするし、同じコンビニでも、ただ販売するだけの店もあれば、食事スペースを設けた店もある。

 じゃあ、殺したのは誰?これは明白、マイルス・デイビスである。もちろん一人で殺したわけではなく、実行犯は他にも、後にウェザー・リポートを結成するウェイン・ショーターとジョー・ザヴィヌルリターン・トゥ・フォーエヴァーを結成するチック・コリアマハヴィシュヌ・オーケストラを結成するジョン・マクラフリンなどがいるわけだが、首謀者は間違いなくマイルスである。こいつは「ジャズ界の帝王」なんて呼ばれてジャズを牽引し続けたと褒め称えられているわけだが、新しいことにチャレンジし続けたということは、要するに古いものに引導を渡し続けてきたということだ。つまりはジャズ界の連続殺人鬼なのである。

 で、このアルバム、マイルスが電子楽器を大幅に取り入れた最初の1枚ということで、この電子楽器という凶器でもってアコースティック・ジャズを殺したのだ。その割りに、あんまりギャーギャー騒がれない(名盤ガイドに載ることがあまりない)のは、これの翌年に発表する『ビッチェズ・ブリュー』というアルバムによって、ジャズそのものを殺すという大犯罪をやらかしているので、こいつは、その前座程度にしか認識されていないためと思われる。しかし、このアルバムの時点でマイルスの犯意(ジャズに対する殺意)は既に明白であり(そもそも、即興演奏が肝のジャズなのに、それを元にプロデューサーのテオ・マセロにテープ編集をさせて発表している段階で、ジャズの否定と捉えていいと思う)、ここに聞かれる浮遊感覚抜群でかっこよく、しかもどこかしら不安げな音楽がアンビエント・ミュージックに極めて近接している(と言うか、そのもの)というのは、これがジャズに対するレクイエムだからに他ならないのである。


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