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ダイキチデラックス

アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕

霜月蒼  2018年


評論の方が面白い

 アガサ・クリスティーの人気が、イマイチ理解できない。まぁ、『オリエント急行の殺人』だの『アクロイド殺し』だの『そして誰もいなくなった』だの『ABC殺人事件』だのといった有名どころの作品は、読む前にトリックをことごとくバラされてたので、出会いが不幸だったと言えば確かにそうなのだが、それを差し引いても、そんなに面白いと思えない。それなのに、やたらめったら映画化されてるし(小さい頃テレビCMで「ミステリ~ナァ~イル」って嫌というほど聞かされたぞ)、わざわざ舞台を日本に移したドラマもいっぱいあるし、なんだって、こんなに恵まれた作家なのか、どうしても理解できぬ。と、いうような私ほど歪んではいないと思うが、この本の著者である霜月蒼という評論家も、似たような動機から(ホントに?)クリスティーの全作品を読んでみようとしたらしい。で、全100作品を読み切った結果、素晴らしい評論が生まれたわけだ。

 この本を参考に、私も何冊か読んでみたが、『終りなき夜に生れつく』を唯一の例外として、やっぱり面白いと思えなかった。ミステリーとしてダメ、ということではなく、こっち方向の面白さを、私は求めていないということだ。いくら後でビックリの元になるとしても、人間ドラマなんか退屈で読んでられないということなのだ、私にとっては。「そこに何か仕掛けがある」「見かけと実際は違う」ということは分かってて読むわけで、そうなると、クリスティー作品の大半は退屈以外の何物でもない。一言で言えば、私には合わないということなのだね。クリスティーって、ミステリーじゃなくて、普通に悲劇を描けばいいんじゃないのかと思う。

 というわけで、著者の思いとは裏腹に、クリスティー再評価というわけにはいかなかった私だが、この評論は実に素晴らしい。この本だけ読んでいたら、クリスティーって、なんてすごい作家なんだ! と思うこと間違いなし。こんな力を持った評論って、そうそうお目にかかれるものじゃない。これくらいの質と量で、エラリー・クイーンとディクスン・カー(カーター・ディクスン)の全作レビュー&評論が読みたい。クイーンには『エラリー・クイーン パーフェクトガイド』という良書があるが、評論部分がチト少ないし、カーに至っては、こういう類の本が何もない。是非作ってほしい。誰かお願い。




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